恋は揺らめぎの間に
「…静香。」
急いで出てきたのだろう。頭が濡れたまま、服も着崩れている慎司君にぎょっとする。
「身体が冷えちゃうよ! こっち、早く座って!」
どうしたら良いかわからない子どものように、少し離れたところに突っ立っているので、慌てて炬燵から出て毛布を持ってくる。慎司君はおずおずと炬燵に入ってきて、私に毛布をかけられ、おとなしくタオルで頭を拭かせてくれた。慎司君の方が何倍も身体は大きいのに、まるで子どもか子犬のようだ。
これでよし、と拭き終わると、それまで黙っていた慎司君が突然ごめんと謝った。
「…待ってると、思わなくて。」
「いいの。 好きで待ってただけだから。 慎司君、明日仕事は?」
慎司君は首を横に振る。
「静香は?」
「明日は午後からだから。」
心配そうに振り返ってくる慎司君。私も炬燵に入る。
しーんと静まりかえる部屋に、もぞもぞと炬燵布団がすれる音だけが響く。
………何を、何から、話すべきか。
それを探り合うかのような時間が、しばらく続いた。
その均衡を破ったのは、慎司君だった。
「…今日は、どこに行ってたんだ?」
「え? あ、遊園地に… 一華ちゃんとね、高橋君もいたよ。 慶人君が高橋君を連れてきてビックリしちゃった。」
慎司君はちらっとこちらを見る。
「ナツキ、が名前じゃなかったんだ?」
言われてハッとする。
何を何から話すべきか。慎司君には夏木君と大学で再会したことしか話していないのだから、何を何から、ではない。すべて話す必要があるのではないか。
「アイツと、付き合うことにした?」
そして、慎司君にすべて言わせていいはずもない。
「今から、ちゃんと話すね…。」
本当は家の前で再会したこと。隣に慶人君が住んでいること。慶人君から告白されたこと。慶人君に会えば、その言動にやっぱりドキドキしてしまうこと。だけどその気持ちは、過去をぶり返しているだけなのではないかと、自分の気持ちに確証が持てないこと。だから告白を今日も断ったけれど、断り切れていない気がすること。
全部、全部…キスされたこと以外は、全て話そう。