恋は揺らめぎの間に



小さい頃からずっと野球をしている慎司君は、社会人になった今も草野球チームに入って活動しており、冬でも肌は小麦色をしている。

しかし、それが今はどうだろうか。

みるみるうちに、首元から耳の先まで、暗がりでも見てとれるほどに、顔が赤く染まっていく。見開かれた目は少し潤み、視線は向ける先を探して彷徨っていた。それはまもなく私に伝播した。


胸の奥から、カカカッと熱がせり上がってきた。それはぶわりと顔中に広がり、逆に頭は冷えていくような感覚が走った。
慎司君が私のことを、ずっと好きだったのだと気づいた瞬間の出来事であった。

それに気づくと同時に、これまでの慎司君の行動の意味がわかり、またこれまでの自分の振る舞いが慎司君に与えていただろう苦悩に気づき、恥ずかしさが後を追ってどんどん湧き上がってきた。


……どのくらい、見つめ合っていただろうか。ほんの一瞬だった気もする。ビリリリリ!!と、けたたましい着信音が流れるまで、私達はお互いの心を探り合うように、見つめ合っていたと思う。

音の正体は、職場から緊急の呼び出しだった。

パッと私に背を向けて電話に出る慎司君。その耳まで赤くなっていた。



「…ごめん。 行ってくる。」



バイクへ跨る慎司君。何度か、何か言いたげにこちらをちらちら見ていたが、何も言わずに仕事へと行ってしまった。
そして残された私はというと、しばらくその場から動けなくなってしまった。


慎司君が、私のことを好きだと思ってくれていたなんて……。

家までどうやって戻ったのかがわからなくなるくらい、頭が混乱していた。



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