恋は揺らめぎの間に

5




「え? 本当に? いいの?」



目をキラキラと子どものように輝かせる慶人君。私がこくりと頷くと、それはそれは嬉しそうに笑った。



「やった!! ありがとう!!」



大きな声で、そんなに喜んでくれるなんて思わなくて、逆に恥ずかしくなる。



「その…大したものじゃないよ?」

「僕にとっては大したものだよ。 貰えないって思ってたから。」



バレンタインのチョコレート。慶人君はそれを大切に大切に両手で包み、嬉しそうに目を細めて見つめる。



「本当にありがとう。 大事に食べるね。」



ずっとずっと渡したかった、やっと渡せたチョコレート。そんなに喜んでくれるなら、高校の時に頑張っていればよかったと思う。
あの頃渡していたら、何かが違ったのだろうか…。



「静香ちゃんは今日この後バイトかな?」

「うん。 すぐ行かないといけないの。 ごめんね慶人君。 学部棟まで押しかけて…。」

「まだ講義が残ってるから助かったよ。 それに、静香ちゃんが来てくれて嬉しいんだ。 しかもプレゼント付き! 凄く嬉しいよ。」



ちらりと慶人君の鞄に目を向ける。歪な形に膨らんだそこには、おそらくいくつかのチョコレートが入っているのだろう。

相変わらず慶人君は大学でもモテモテで、綺麗な人達に言い寄られているんだろうな…。

去年は受験でそれどころではなかったから、今年はと思って頑張って手作りしてみたが、慶人君がもらったであろうチョコレートと比べるとチープだろうと思うと、途端に恥ずかしくなってきた。

やっぱり返してもらおうか。そんな考えが過った時、遠くから慶人君を探す声が聞こえてきた。



「慶人ー! なんか先輩が呼んでるー!」



そちらを向くと、気合いが入っていることがわかるくらいお洒落をした女性が2人、キャアキャアいいながら手を振っていた。



「じゃ、じゃあ私、もう行くね!」 

「あっ、待って!」 



足早に立ち去ろうとした私の手をパシッと掴む慶人君。



「今日、牧瀬君は…? バイトの迎えにまた来たりするかな?」



なぜそんなことを聞くのだろう?

今日は仕事だから迎えはないはずだと告げると、慶人君は嬉しそうに笑った。



「じゃあ、今日は僕に迎えに行かせてよ。」

「え!?」

「じゃあまた後で!」



断る隙も与えないように、慶人君はニコニコ笑って手を振りながら、駆けていってしまった。



< 56 / 86 >

この作品をシェア

pagetop