とある年の差カップルのほのぼのな日常
その時我成は、大学一年生だった。

講義を終え、一人暮らしのアパートに帰る途中。
梅乃の勤めている、弁当屋に寄った。

先輩達から“美味しいと評判”とは聞いていたが、なかなか行く時間がなくて、この日初めて来店した。

梅乃の勤める弁当屋は、19時まで。
しかし18時の段階で弁当は、ほぼ売り切れてしまう。

17時頃から客が増え始め、一時間もせずになくなるのだ。

初めて来店した我成は、当然それを知らず……

18時半頃に行った時には、弁当はあと一つになっていた。

それでも一つ残っていて、我成は(ラッキー!)と思って、弁当を取ろうとする。

すると…………

ドン…!!と突き飛ばされたのだ。 

突き飛ばしたのは、中年男性。
そしてその中年男性は我成が取ろうとした弁当を取り、さっさと会計をして去っていったのだ。

我成は、呆然としていた。

何が起こったのか、わからなかった。

弁当を横取りされたと気付いたのは、中年男性が出ていった後少ししてからだ。

当然、弁当は売り切れ。

我成は肩を落としたように、店を後にした。

アパート近くのコンビニで、おにぎりでも買って帰ろう。

そんな事を考えながら、ゆっくり歩いていると………

「―――――すみませーん!!!」

後ろから呼び止められたのだ。

振り向くと、女性がビニール袋を片手に駆け寄って来ていた。

それこそが“梅乃”である。

「あ、俺?」

「はい!
これ!」

そう言って、ビニール袋を渡された我成。

「え?え?」

「これ、私の試作品です!
お代は結構なので!
どうぞ?」
そう言って微笑む、梅乃。

「え?でも……」

「さっきの男性、いつもあーなんです…」

「え?」 

「何度も注意してるんですが、人が取ろうとするのを横取りするんです……」

「そうなんですか?」

「はい。
あまり言うと店の中で暴れるので、私達もそれ以上強く言えなくて……
すみません!!」

今度は、頭を下げてきた。

「あ…い、いえ!」

「だからせめて、これを……」

「あ…えーと…じゃあ…お言葉に甘えて…」

そう言うと、梅乃がふわりと笑った。

「……/////」
その笑顔に我成の心臓が、ドクン…と波打った。

「あ、それで!
もし、良ければ……
感想を聞かせてもらえませんか?」

「え?」

「もし、美味しいと思っていただけたら、メニューに加えてもらえるんです!
……………あ!でも!“良ければ”なので、無理はしないでくださいね?」


そう言って梅乃は再度頭を下げ、来た時と同じように駆けて戻っていった。



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