サイコな結婚詐欺師は恋に仕事に子育てに今日も忙しい。
24.レオ、自分が男が好きだと言われる。
「1かな。2は不可能だし、3はごめん、意味が分からない。」
僕は咄嗟に答えた。
「答えは全部です。彼の記憶容量は無限と思ってくれて良いです。そして、自分は可愛いだけの普通の男の子だと思っています。全ての男は私に惚れますが、最後まで私といられるのは彼だけです」
彼女の答えに僕はまず答えがいくつあるのか聞けばよかったと後悔した。
「自分が特別だと知らないなんてことあり得るの? 自分が当たり前に理解できることを、相手が全然分からない状況が続くと自分が特別だと気づくよね」
僕は彼女に疑問をぶつけた。
「アランは5歳の時にはすでに先皇陛下の業務を全て行ってました。しかし、皇位を継ぐまでは父親に言われた仕事をそのまましています。直接関わった貴族はアランの飛び抜けた才能に気づきつつも、先皇陛下の顔をたて息子の方が特段に優秀とは言いませんでした。アランは褒められても、自分の地位におべっかを使っているとしか思ってません」
彼女が淡々と説明する。
「皇位についてすぐ、彼は帝国法を全編変更しました。彼は効率主義で、使えないと思ったら他の貴族に取り替えるのが早いと考えています。能力がないのではなく、やる気がないと捉えているからです。周りの貴族は血反吐を吐く思いで新しい帝国法を覚えました。どうして皇帝の一存でそんな法律の全編改変ができるのか、考えられないくらい何年もの間アランとのやり取りでほとんどの貴族がマインドコントロールされています」
彼女が丁寧に説明してくれた。
「兄上はマインドコントロールは人の面白さを失わせるからしない方が良いと言ってました。だから僕は兄上の関わる人を洗脳することはしませんでした。でも、自分が人を洗脳できると思ったのは、相手より自分が優秀でコントロールできると考えたからですが、皇帝陛下は自分は普通だと思っているのですか?」
僕はやはり皇帝陛下が自分を天才だと気がついてないことが信じられず質問した。
「マインドコントロールは共感力がないとできません。アランは相手の立場に立って深く共感してます、どうすれば相手が幸せになれるかを彼の価値観で提案します。彼の飛び抜けた才能と共感に毎日のように触れ続けた人間はどんどん彼の価値観に染まり、彼の言うことに従っていれば正しいと思うようになっていきます。アラン自体は意識して相手を洗脳しようとは全く思っていません」
彼女が説明してくれてやっと腑に落ちた。
「それから、ダンテはマインドコントロールをしないのではなく、できません。彼は人に対する共感力を持っていません」
彼女が兄上のことを人の気持ちに共感できない人だと言ってきた。
「兄上は監視のついた僕を不憫に思い、夜いつでも起こしていいから話そうと言ってくれる人ですよ。12時間は寝ないといけないのに⋯⋯」
僕は兄上はいつも僕を思い遣ってくれたことを彼女に話した。
「ダンテが話したいから、いつでも起こしてと言っただけです。お兄様が夜少し起こしたところで12時間寝てますよね。お兄様は自分を思い遣ってくれる優しい理想の兄を彼に当てはめているだけです。彼の全ての行動を思い出せば、全て自分のためのことしかしていないと分かりますよ」
彼女が兄上に対して冷ややかな感情を抱いているのが、言葉からも分かった。
「帝国の貴族は皇帝陛下に鍛えられて優秀な方が多いよね。母上が宰相にしたのはなぜ?」
僕や兄上の能力を手に入れたいなら、母上を適当な要職につければ良いと思うのに、なぜ行政の最高職に彼女をつかせたのかが疑問だった。
「アランに鍛えられて、限界をこえて能力を引き出されている貴族たちは皆優秀です。だから、スモア伯爵が周りと同じ仕事をすると、彼女だけ劣って見えてしまいます。宰相は同じ仕事をする人がいません」
彼女の声色から、彼女が母上に対しては温かい目で見てくれているのが分かった。
「それに、警戒しなければならない部分もありますが面白い人です。追い詰めれば追い詰めるほど力を発揮するので、私はこれから彼女をどんどん追い詰めます」
彼女が続けて言ってきたので、僕は思わず兄役を忘れていつもの口調で口走った。
「辛いことを母上はたくさん経験してきたんです。追い詰めないでください」
「辛いことを経験し続けてきたのはお兄様の方です。彼女は辛いことは、生きるために忘れることができます。エスパルの人間がよく持つ強い忘却力を持っています。やりたくもない殺しの経験でさえ、そんなことあったくらいしか覚えていません。彼女が、宰相として給与相当の力を発揮するには追い詰められ続けなければなりません」
彼女が言ったことを、なんとか納得させようとした。
母上のことはずっと一緒に住んでいても一番理解できなかった。
それは僕が彼女に対して、常に自分を愛して欲しいと思ってしまい行動してしまったから客観視できなかったのかもしれない。
これからは距離を置いたことで、客観的に彼女を見て助けてあげられるようになりたい。
それにしても、皇帝陛下はお会いしたこともないけれど、聞く限りとても素敵な人だ。
「皇帝陛下は純粋な心と彼の理想を守りたいと思う、エレナの気持ちは分かるな」
僕は彼女の皇帝陛下への強い思いに共感したので、そう語りかけた。
「アランに手を出したら、お兄様でも始末します。」
瞬間、彼女が鋭い目つきを僕に向けてきたので少し驚いた。
「僕は男だから皇帝陛下に手を出したりしないよ」
僕は彼女を安心させるように言った。
どうして、僕が彼に手を出すという発想になるのか疑問だった。
「自分の兄しか好きじゃなかったでしょ。お兄様は男が好きなのよ!」
彼女の言葉に驚いてしまった。
「僕が兄上を好きなのは、兄弟愛だろ」
思わず言い返した。
「その兄弟愛を今度は私に向けてくれるのね。嬉しい。まあ、お兄様が男が好きでも、アランに手を出さなきゃなんの問題もないわ。気持ちばかりはどうにもならないとか言って好きになるのもダメよ。お兄様の理性を総動員して、アランに惹かれる気持ちを抑えてね」
彼女が人差し指を僕の鼻に当てながら言ってくる。
「男が好きだったら、アーデン侯爵家の後継者としては困るだろ」
僕は言い返しながら、なにも困らないことに気がついた。
僕を後継者として迎えている時点でアーデン侯爵家の血統は切れている。
だから、僕が自分の子供に跡を継がせるということをしなくても良い。
僕が養子としてアーデン侯爵家に来たように、優秀な子を養子として迎えて跡継ぎにすれば良いのだ。
「何も困らないでしょ。誰を好きになっても、お兄様の価値は揺るがないわ。今日、スモア伯爵にお兄様を手放させようとしたら抵抗したわ。私は欲しいものは人のものでも奪う主義だから奪ったけれど」
彼女が僕を見つめながら言ってくる。
「母上が、僕を手放したくないって?」
僕は驚きのあまり口にしていた。
母上にとって僕はどうでも良い存在だと思っていたから。
「失うかもしれないと知り恐怖するほど、彼女はお兄様に依存しすぎていた。彼女にとってお兄様をとられたのは辛いこと。けれど、どんな強い忘却力を持ってもお兄様のことは忘れられない」
彼女が言った言葉に思わず目を見張る。
「芋を食べながら、ご馳走を作ってくれた息子がいたことを思い出すでしょう。空っぽの部屋を見て、天使のような子が自分の世界に現れてくれた日のことを思い出すでしょう」
彼女が僕を見つめながら言ってくる言葉に僕は泣きそうになった。
「エレナとお兄様の失って初めて知る愛おしさと、会えない時が愛を育てる大作戦です!」
彼女が微笑みながら言ってくる。
彼女はやっぱり優しい人だ。
6時間寝なければならないと言っていたから、まだ話したいけれど、今日はお別れしたほうが良いかもしれない。
僕はエスパルでの監視に晒された生活のせいか、何日か寝なくても大丈夫だから後で彼女の部屋に行って仕事の手伝いをしよう。
「今日はもう寝ようか。そういえば、全ての男はエレナに惚れると言っていたけれど僕は惚れていない。僕がエレナのような美女系ではなく可愛い系を好きな可能性は考えなかったの?」
僕は母上の手記に女性には美女系と可愛い系があると書いてあったのを思い出した。
「お兄様、私は一見、絶世の美女ですが、高濃度の可愛い系の成分を含有しております。私に反応しない男は男が好きなのです。お兄様は皆が私に見惚れる中、1人ダンテの反応を見てました。では、おやすみなさい」
彼女が手を振りながら言った言葉におもわず吹き出しそうになった。
僕は咄嗟に答えた。
「答えは全部です。彼の記憶容量は無限と思ってくれて良いです。そして、自分は可愛いだけの普通の男の子だと思っています。全ての男は私に惚れますが、最後まで私といられるのは彼だけです」
彼女の答えに僕はまず答えがいくつあるのか聞けばよかったと後悔した。
「自分が特別だと知らないなんてことあり得るの? 自分が当たり前に理解できることを、相手が全然分からない状況が続くと自分が特別だと気づくよね」
僕は彼女に疑問をぶつけた。
「アランは5歳の時にはすでに先皇陛下の業務を全て行ってました。しかし、皇位を継ぐまでは父親に言われた仕事をそのまましています。直接関わった貴族はアランの飛び抜けた才能に気づきつつも、先皇陛下の顔をたて息子の方が特段に優秀とは言いませんでした。アランは褒められても、自分の地位におべっかを使っているとしか思ってません」
彼女が淡々と説明する。
「皇位についてすぐ、彼は帝国法を全編変更しました。彼は効率主義で、使えないと思ったら他の貴族に取り替えるのが早いと考えています。能力がないのではなく、やる気がないと捉えているからです。周りの貴族は血反吐を吐く思いで新しい帝国法を覚えました。どうして皇帝の一存でそんな法律の全編改変ができるのか、考えられないくらい何年もの間アランとのやり取りでほとんどの貴族がマインドコントロールされています」
彼女が丁寧に説明してくれた。
「兄上はマインドコントロールは人の面白さを失わせるからしない方が良いと言ってました。だから僕は兄上の関わる人を洗脳することはしませんでした。でも、自分が人を洗脳できると思ったのは、相手より自分が優秀でコントロールできると考えたからですが、皇帝陛下は自分は普通だと思っているのですか?」
僕はやはり皇帝陛下が自分を天才だと気がついてないことが信じられず質問した。
「マインドコントロールは共感力がないとできません。アランは相手の立場に立って深く共感してます、どうすれば相手が幸せになれるかを彼の価値観で提案します。彼の飛び抜けた才能と共感に毎日のように触れ続けた人間はどんどん彼の価値観に染まり、彼の言うことに従っていれば正しいと思うようになっていきます。アラン自体は意識して相手を洗脳しようとは全く思っていません」
彼女が説明してくれてやっと腑に落ちた。
「それから、ダンテはマインドコントロールをしないのではなく、できません。彼は人に対する共感力を持っていません」
彼女が兄上のことを人の気持ちに共感できない人だと言ってきた。
「兄上は監視のついた僕を不憫に思い、夜いつでも起こしていいから話そうと言ってくれる人ですよ。12時間は寝ないといけないのに⋯⋯」
僕は兄上はいつも僕を思い遣ってくれたことを彼女に話した。
「ダンテが話したいから、いつでも起こしてと言っただけです。お兄様が夜少し起こしたところで12時間寝てますよね。お兄様は自分を思い遣ってくれる優しい理想の兄を彼に当てはめているだけです。彼の全ての行動を思い出せば、全て自分のためのことしかしていないと分かりますよ」
彼女が兄上に対して冷ややかな感情を抱いているのが、言葉からも分かった。
「帝国の貴族は皇帝陛下に鍛えられて優秀な方が多いよね。母上が宰相にしたのはなぜ?」
僕や兄上の能力を手に入れたいなら、母上を適当な要職につければ良いと思うのに、なぜ行政の最高職に彼女をつかせたのかが疑問だった。
「アランに鍛えられて、限界をこえて能力を引き出されている貴族たちは皆優秀です。だから、スモア伯爵が周りと同じ仕事をすると、彼女だけ劣って見えてしまいます。宰相は同じ仕事をする人がいません」
彼女の声色から、彼女が母上に対しては温かい目で見てくれているのが分かった。
「それに、警戒しなければならない部分もありますが面白い人です。追い詰めれば追い詰めるほど力を発揮するので、私はこれから彼女をどんどん追い詰めます」
彼女が続けて言ってきたので、僕は思わず兄役を忘れていつもの口調で口走った。
「辛いことを母上はたくさん経験してきたんです。追い詰めないでください」
「辛いことを経験し続けてきたのはお兄様の方です。彼女は辛いことは、生きるために忘れることができます。エスパルの人間がよく持つ強い忘却力を持っています。やりたくもない殺しの経験でさえ、そんなことあったくらいしか覚えていません。彼女が、宰相として給与相当の力を発揮するには追い詰められ続けなければなりません」
彼女が言ったことを、なんとか納得させようとした。
母上のことはずっと一緒に住んでいても一番理解できなかった。
それは僕が彼女に対して、常に自分を愛して欲しいと思ってしまい行動してしまったから客観視できなかったのかもしれない。
これからは距離を置いたことで、客観的に彼女を見て助けてあげられるようになりたい。
それにしても、皇帝陛下はお会いしたこともないけれど、聞く限りとても素敵な人だ。
「皇帝陛下は純粋な心と彼の理想を守りたいと思う、エレナの気持ちは分かるな」
僕は彼女の皇帝陛下への強い思いに共感したので、そう語りかけた。
「アランに手を出したら、お兄様でも始末します。」
瞬間、彼女が鋭い目つきを僕に向けてきたので少し驚いた。
「僕は男だから皇帝陛下に手を出したりしないよ」
僕は彼女を安心させるように言った。
どうして、僕が彼に手を出すという発想になるのか疑問だった。
「自分の兄しか好きじゃなかったでしょ。お兄様は男が好きなのよ!」
彼女の言葉に驚いてしまった。
「僕が兄上を好きなのは、兄弟愛だろ」
思わず言い返した。
「その兄弟愛を今度は私に向けてくれるのね。嬉しい。まあ、お兄様が男が好きでも、アランに手を出さなきゃなんの問題もないわ。気持ちばかりはどうにもならないとか言って好きになるのもダメよ。お兄様の理性を総動員して、アランに惹かれる気持ちを抑えてね」
彼女が人差し指を僕の鼻に当てながら言ってくる。
「男が好きだったら、アーデン侯爵家の後継者としては困るだろ」
僕は言い返しながら、なにも困らないことに気がついた。
僕を後継者として迎えている時点でアーデン侯爵家の血統は切れている。
だから、僕が自分の子供に跡を継がせるということをしなくても良い。
僕が養子としてアーデン侯爵家に来たように、優秀な子を養子として迎えて跡継ぎにすれば良いのだ。
「何も困らないでしょ。誰を好きになっても、お兄様の価値は揺るがないわ。今日、スモア伯爵にお兄様を手放させようとしたら抵抗したわ。私は欲しいものは人のものでも奪う主義だから奪ったけれど」
彼女が僕を見つめながら言ってくる。
「母上が、僕を手放したくないって?」
僕は驚きのあまり口にしていた。
母上にとって僕はどうでも良い存在だと思っていたから。
「失うかもしれないと知り恐怖するほど、彼女はお兄様に依存しすぎていた。彼女にとってお兄様をとられたのは辛いこと。けれど、どんな強い忘却力を持ってもお兄様のことは忘れられない」
彼女が言った言葉に思わず目を見張る。
「芋を食べながら、ご馳走を作ってくれた息子がいたことを思い出すでしょう。空っぽの部屋を見て、天使のような子が自分の世界に現れてくれた日のことを思い出すでしょう」
彼女が僕を見つめながら言ってくる言葉に僕は泣きそうになった。
「エレナとお兄様の失って初めて知る愛おしさと、会えない時が愛を育てる大作戦です!」
彼女が微笑みながら言ってくる。
彼女はやっぱり優しい人だ。
6時間寝なければならないと言っていたから、まだ話したいけれど、今日はお別れしたほうが良いかもしれない。
僕はエスパルでの監視に晒された生活のせいか、何日か寝なくても大丈夫だから後で彼女の部屋に行って仕事の手伝いをしよう。
「今日はもう寝ようか。そういえば、全ての男はエレナに惚れると言っていたけれど僕は惚れていない。僕がエレナのような美女系ではなく可愛い系を好きな可能性は考えなかったの?」
僕は母上の手記に女性には美女系と可愛い系があると書いてあったのを思い出した。
「お兄様、私は一見、絶世の美女ですが、高濃度の可愛い系の成分を含有しております。私に反応しない男は男が好きなのです。お兄様は皆が私に見惚れる中、1人ダンテの反応を見てました。では、おやすみなさい」
彼女が手を振りながら言った言葉におもわず吹き出しそうになった。