サイコな結婚詐欺師は恋に仕事に子育てに今日も忙しい。

28.ダンテ、決意する。

「料理といえば芋蒸すしかできなくて、首都の川で子供を毎日泳がすような奇行をするような女ですよ。きっと、俺やレオの功績も彼女の功績に加わって子育て法まで見習われ川泳ぎを真似る貴族も出てくるでしょうね」

俺はわざと母上をさげる発言をして、エレナ様の出方を見た。
俺は皇帝陛下は別としても、レオやエレナ様より母上こそ理解をこえた存在だと思っている。

世界一の大出世する強運を彼女が持っていたのは何故なのか、なぜ天才である俺の想像をこえる面白い行動ばかりするのか。

知性のかけらもない子爵との間に2人の天才児を産んだことも不思議で仕方ない。
母上が、イケメンを隣に置き続けて神に価値をアピールしたという理由があれば腑に落ちる。

そもそも実は俺はジルベールを実際見たにも関わらず、本当は彼の存在を疑っている。
母上なら意思の力で人一人くらい作れるんじゃないかと言うくらい、彼女は謎なのだ。

「私がリーザ・スモア伯爵を馬鹿にしている? 母親を甘く見ているのはあなたでしょ」
彼女が面倒そうに言ってきた。

やはり、エレナ様は母上の察しの良さにも気がついてそうだ。
決して洗脳されることもなく、察しの良い母上を宰相にするリスクは理解していたはずだ。

「俺は母上を世界一面白い人だと思ってますよ。エレナ様、皇帝陛下と結婚する時は24歳ですよね。美女系のエレナ様の寿命は短いですよ、その頃には飽きられているかもしれませんね。長く愛されるのは可愛い系ですから」

俺は自信に溢れたエレナ様の心に付け入る隙間を作りたくて、また彼女を刺激するようなことを言った。

「ふふっ、それってスモア伯爵の教えでしょ。もう、そんなことよりレオを頂戴よ」
今まで能面のような無表情だったエレナ様が笑いを堪えきれなくて、センスで顔を隠していた。
母上はすごい、こんな完璧令嬢にも面白さで一撃を喰らわせてしまうのだ。

エレナ様は母上の察しの良さには気がつきつつも、面白いから割と自分と関わる仕事においたのだろうか。
でも、彼女が母上の察しの良さや、追い詰められた時の予想外の行動の怖さに気づいているなら必ず何か対策をしているはずだ。

母上がいくら現政権に違和感を持っても、その違和感を追い出すような別のことを彼女の頭に入れてしまえば対策は完了してしまう。

「レオがアーデン侯爵邸に行きたいとは思わないと思いますよ。芋しか作れない母親を置いて家を出る奴ではありませんから」

俺はエレナ様にキッパリとレオの件を断った。

「レオがアーデン侯爵邸に行くのを選んだら、従うということよね」
エレナ様が勝ち誇ったように言ってくる。

「絶対に選ばないし、レオは母上の側にいたがると思うんですけれどね。彼の行動の根源は全部母上なので。将来だって普通に母上の爵位を継げば良いでしょ」

俺は今までのレオを思い出しながら言った。
確かに侯爵位を継ぐ方が良いかもしれないが、レオはそんな出世欲がある人間なのだろうか。
10年一緒にいたが、いつも我慢し、俺や母上をひたすらに慕い尽くす彼しか思い浮かばない。

「レオは男が好きだって知ってた?アーデン侯爵家はレオに爵位を譲ることで血筋も途絶えるから後継者を産ませるために女と結婚しなくても良い。帝国一歴史もある侯爵家は他の貴族とはできることも違うから、レオの可能性を十分試せるわ。彼はアーデン侯爵家の財産も人脈も全てを使いこなし、発展させていくだけの能力がある。彼にとってもアーデン侯爵家に来ることが最善なのよ」

エレナ様が真剣な目で熱弁してくれるのは嬉しかったが、俺はレオが男が好きという言葉に完全に頭が回らなくなってしまった。

「え? 男が好き?」
俺は思わず間抜けヅラで呟いていた。

エレナ様が俺を動揺させるために言ったのだろうか。
だとしたら効果は抜群だ。

あまりの衝撃に思考がフリーズしている。

「10年一緒に暮らしても気が付かないなんて、あなた観察力なさすぎ。私の弟として暮らした方がレオにとっても絶対良いわ」

エレナ様が少し呆れたように言ってきた。
俺はその時になって気がついた。

アーデン侯爵家の養子になると言うことはエレナ様の弟になると言うことあ。

「レオがアーデン侯爵家を選ぶならどうぞ。ちなみに兄弟枠は1つしかないのでしょうか?」
俺は愛人ポジションより、弟ポジションの方が甘えられて美味しい気もしてきたので提案した。

そもそもレオは俺のように美女が迎えにきたからとフラフラついて行くタイプでもないので侯爵邸の養子になることはない。
今ここで、弟枠に立候補すれば最終的に俺はエレナ様のたった1人の弟になれる可能性が高い。

「外交のコツは洗脳と暗殺よ。あとは宜しくね」
俺の要望を軽くスルーしながら、彼女は動いている馬車の扉を開けて外に飛び降りた。

「え、エレナ様大丈夫ですか?」
俺は突然のエレナ様の行動に驚いて、彼女が大怪我をしてないか心配になった。
周りの護衛騎士たちと御者が驚いてフリーズしている。

「馬を降りなさい。これより、私の補佐官の指示に従うように。私は戻ります」
エレナ様は堂々とした声で宣言した。

彼女は本当に女王様みたいだ、周りは突然の行動に驚きながらも彼女に従おうと必死に指示を聞く。
彼女がむさ苦しい護衛騎士を馬からおろし、自分がその馬にまたがった。

「侯爵令嬢、邸宅まで護衛致します」
慌てたように、他の騎士が彼女に言うと周りの騎士たちもそれに続いて護衛を申し出た。

「必要ないわ。彼、ホームシックみたいなの、一緒に馬車に乗ってあげて」
彼女はそう言い放つと、馬をおりた騎士に俺の相手をお願いしていた。

「待ってください、エレナ様、俺も弟にしてください!」
あっという間に、馬に乗って去っていった彼女の背に俺は叫んだ。
それにしても彼女の乗馬スキルが凄すぎて、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

「分かります。私も侯爵令嬢の馬になりたい人生でした。では、私の故郷の話からしましょうか」
むさ苦しい騎士が馬車に乗りながら言ってくる。

「変な距離の詰め方、やめてくれます。馬ってもはや人間じゃないですよね。それに隣じゃなくて普通向かいに座りませんか?」
俺は彼の馬くさい匂いに思わず顔を顰めながら言った。

「実は馬車は苦手で、進行方向を向かって座らないと酔ってしまうんです」
そう言いながら、むさ苦しい騎士はますます俺に寄ってきた。
この人選絶対、エレナ様の嫌がらせだ。

でも、実は俺が進行方向を向く席に座らせてもらっていたようだ。
彼女は気遣いのできる優しい人間なのか、元々自分は長距離移動する気がなかったのか。

そもそも外交と暗殺がコツってどちらも経験したことがない。

それを分かってて彼女は俺を挑発してきている。
皇帝陛下も本気になれば4ヶ月でできるだなんて舐めやがって。

「絶対3ヶ月で戻ってやる!」
俺は固く決意した。
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