サイコな結婚詐欺師は恋に仕事に子育てに今日も忙しい。

32.リーザ、息子に夢を語る。

「母上、頼まれていた香水を持ってきました。昨日貼った紙をもう貼り替えているのですか?」
次の日レオが香水を持ってきて伯爵邸を訪れてくれた。
流石レオだ、仕事が早い。

「ありがとう。すごい嬉しい。そうなのよ、実は最近覚えるのが早くなってきたんだよ。忘れっぽさも減ってきた気がする」
私はレオに最近の状況を報告した。
仕事内容は覚えなければいけない優先事項だ。
もしかしたら、他のどうでも良いことを忘れてるかもしれないけれど生きるのに必要ないことは忘れても問題ない。

「これから、どんどん覚えられるようになると思いますよ」
レオが笑顔で言ってくる、彼が言うなら間違いない気がする。

「エスパルを出て気持ちに余裕ができたからかな、そういえばダンテが今のままだと帝国がエスパルみたいになると言ってた」
私は自分で言いながら、急激に心に霧がかかっていくのが分かった。

「兄上の思うエスパルと、母上の思うエスパルは違います。兄上はエスパルは人の本質が剥き出しになる面白い国だと言ってました。母上にとっては閉塞感のある国でしたよね」
レオが涼やかな言葉で言ってくる。

ダンテは私の前では問題児だったのに、彼の前では客観的に国を評価するようなことを言う賢さを見せていたと言うことだ。

「本質って追い詰められて剥き出しになってただけだよ。みんな苦しんでたよ。レオは帝国もエスパルみたいになってくと思う?」

私はダンテが色々な面を私に隠していたことに気がついて不安になって尋ねた。

「母上の思うエスパルのようにはならないです。帝国が皇帝陛下による独裁国家だと感じていますよね。皇帝陛下は帝国民のための国を作ろうとしています。ヴィラン公爵は自分のための国を作ろうとしてました」
レオが私を安心させるように言ってくると、心の霧が晴れていく気がした。

「昨日、皇宮医の面接にコットン男爵令嬢がきました。彼女の年齢や身分から先皇陛下の時代では面接を受けることもできなかったそうです。でも非常に優秀で皇宮医として仕えるのを自分の夢だと熱く語り採用されたと聞いています。今まで、夢を見ることも語ることも許されなかった人が皇帝陛下の知世では活躍できる機会が得られるのです。みんなが本来持っている気持ちや能力を活かせる帝国になると思います」

レオが続けて語ってくれた言葉に思わず私も頷いた。

「私も帝国に来て夢が叶いそうなの。実は私、幼い頃から愛する人と結婚することが夢だったんだ。マラス元子爵との間には愛がなかった。愛するレオとダンテを授かれたことには感謝しているけれど⋯⋯」

私は息子のレオに彼の父親を愛していないと言っているのに気がついた。
しかし、彼は私の手記を読んでいるので私が貴族になりたくて結婚し、ずっと離婚したがってたことを知っているだろう。

レオとダンテに会えたのだがら彼と結婚したことを後悔はしていないが、私は自分の夢を諦められなかった。

「結婚したいと言う相手はリース子爵ですね」
レオが言った言葉に私は頷いた。

「実は帝国に来るまで私は自分が誰も愛せない人間だと悩んでいたんだ。愛おしいと感じられたのは自分の子供だけ。だから、エドワード様と出会って気持ちを持てたのは奇跡だと思った」

私はおそらく他の大多数のエスパルの民と同じ様に生き残ることを優先し、周りの人間を陥れたり、利用することを考えていた。

そんなことを常に考える人間が人を愛おしく思えるはずもない。
血を分けた自分の子供だけは、自分の体と同じように愛せただけだ。

エスパルで貴族になりたいと思ったのも、平民だと兵士として命の危険に晒されるのが怖かったのが一番の理由だった。

「大丈夫ですよ、母上。きっと母上の夢は叶います。」
レオが優しく言ってくるので、私は気になったことを聞いてみた。
「レオの夢は何?聞いたことなかったよね。」

「特にないですね。気にしたことありませんでした」
レオはしばらく考えた後にそう言った。
彼はエスパルでは1日中監視され、教育を強制されていたのだ夢などどう持てと言うのか。

「エスパルは人が夢を持つことも難しい国だったね。帝国を人が夢を持てる国にしていきたいね」
私は皇帝陛下が作る帝国の理想と自分の理想が合っていることに気がつき彼に言った。

「そういえば、アーデン侯爵令嬢がレオは帝国一の貴族になるって言ってたよ。事業にもたくさん挑戦しているみたいだし、レオには可能性がいっぱいだね。レオは声フェチだから、それを活かせる仕事もしてみたら?」
私はレオがどんな夢を持って、どんな活躍をするのか楽しみでいっていた。

「僕、声フェチなんですか?そういえばお姉様が僕は聴覚が強いと言ってました」
レオが少し驚いたような顔をして言ってくる。

「いつも見た目より声の感想が多いよ。作曲とかしてみたら?」
彼のピアノ演奏を聞いたことがあるので、私はとりあえず言ってみた。

「作曲はしたことないので、できるか分かりませんが挑戦してみますね」
彼の言葉に私は反省した。
デザインを描いているところも、ダンスをしているところもみたことがないのに彼は完璧だった。
私が見ていないだけだったのだ、彼はそんな私を見てどれだけ寂しい思いをしたことか。

本当はファッションにも興味が合って、ダンスだってヴィラン公爵が養子にと狙っていた訳だから練習をしているに決まっている。

「母上の結婚式には、僕がウェディングドレスと曲をプレゼントします。僕も母上もこれから理想の帝国作りに忙しいと思いますが、また沢山お話ししましょうね」
レオは私の顔が曇ったことに気がついたのだろう、またフォローさせてしまった。
「うん、話したい。レオには可能性がいっぱい広がってるからね。昔っからあなたは私の超自慢の息子なんだから。」
私は自分の思いのたけを彼に話した。

「母上がイケメンを隣に置いて己の価値を証明し続けたことで生まれた僕ですから、僕もその価値を証明できるよう頑張ります」
レオはそう爽やかに言うと帰っていった。
いつの間にか、彼は私に気を遣うだけではなく私を揶揄うようなことを言ってくれるようになっていった。

「私、離婚もしていないのに、本当にエドワード様と結婚できるのかしら」
私は実は何度もマラス元子爵に離婚をしたいと手紙を送っているのだが、そのために突っぱねられている。
帝国での私やレオ、ダンテの活躍が耳に入っているのかもしれない。

手放すのが惜しくなっているのか、手紙は身の毛もよだつ甘ったるい言葉が並んでいる。
私にそんな言葉をかけたことなど一度もないくせに頭にくる。

流石に、レオがアーデン侯爵家の養子になったことまでは伝わってないかもしれないが、ダンテを自分の子ではないと言い続けた彼に父親面もされたくない。

「あんなやつ、暗殺しておくべきだったか。ダンテだけでなくレオも彼に感情はないようだし。でも、宰相が首都から離れられない職だったとは」
マラス元子爵を暗殺しようと思えばいつでもできた。
ダンテとレオの父親であることが私にとっては彼を生かす意味だった。

「今は帝国のために働こう。それにしても1年に1回の建国祭の時にしかエドワード様に会えないなんて。神様お願いです。彼はたまに天然な人参にしか見えないですが、私に必要なイケメンです。もっと会わせてー!」
私は祈りを捧げて眠りについた。
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