サイコな結婚詐欺師は恋に仕事に子育てに今日も忙しい。
5.リーザ、悪女の資質を見込まれる。
「あなたには帝国の宰相としての適性があるわ。帝国の宰相は代々、利己的で悪事を平気で働ける者が就く職なの。最低でも伯爵位はないと宰相職はできないわ」
彼女はまた新たな書類の束をいくつか用意しながら告げて来る。
私のどこが利己的だというのか、子供思いの良いお母さんではないか。
悪事など生まれてこのかた働いたことはない。
「あなたの9年に及ぶ結婚詐欺が露見しなかったのは、あなた自身が全く罪悪感を持ってなかったからよ」
彼女は戸惑っている私を見て続けてきた。
なぜ私が罪悪感を持たなければならないのか全く理解できなかった。
自分にとって必要だからしたことだけだ。
私は自分以上に子供たちを大事に思っているが、自分のことだって大事に決まっている。
私が私を愛し続けるためにすることは悪事でもなんでもない。
帝国の前の宰相はカルマン公爵だ。
エスパル王国を私物化してきたヴィラン公爵をマイルドにしたような悪人。
彼の悪事は現皇帝陛下アラン・レオハードによって明らかにされたという。
カルマン公爵はアラン皇帝の母君のご実家であり、彼自身最大の後ろ盾だったはずだ。
にもかかわらず、皇帝陛下はカルマン公爵家を粛清した。
私が彼と会う前から彼を公平な方だと信頼している理由の1つだ。
「待ってください。私、何か悪いことさせられるのですか? 悪事が露見したら粛清されるのではないのですか?」
アーデン侯爵令嬢は私に悪事を働かせるつもりなのだろうか。
万が一悪事が公になったらトカゲの尻尾切りのように捨てられ、子供達にも被害が及ぶに違いない。
「あなたは自分の目的のためにすることを悪事と認識しない人間。他の人から見たら悪事に見えてしまうかもしれないわね。露見するようなことがあっても、子供達はアーデン侯爵家の養子にするから安全よ」
アーデン侯爵令嬢がうっすら優しく微笑みながら言ってきた。
思わず見惚れてしまうが、私のことは助けるつもりはないと言われた気がする。
あまりに彼女のきつい言葉に晒されたせいか、子供の安全を保証されただけで少し感動されてしまっている。
なんだろう、一種のマインドコントロールのようなことをされているのだろうか。
長きに渡るエスパルの洗脳教育にも屈しなかった私に限ってそんなはずはない。
「私達、臣下がすべきことは皇帝陛下の歩む道の小石を足元を見ないで済むくらい拾うこと。陛下の理想を実現するため心を砕くこと」
アーデン侯爵令嬢の真剣な眼差しに思わず背筋が伸びた。
このような女王様のような振る舞いをする彼女から自分を臣下などと呼ぶ言葉が出るとは意外だった。
「それから、子供達の学校の件だけどアカデミーにレオは飛び入学で入学手続きをするつもりよ」
彼女の言葉に驚いた。
12歳から後継者を養成するアカデミーでの教育が受けられるとあったので、ダンテの入学を希望することとレオは12歳になり次第入学希望と書いていた。
飛び入学の制度なんて書いていなかったが、レオはエスパルでも有名な天才だし可能だという判断なのだろうか。
この帝国の採用試験の受験者は皇宮に部屋を用意され試験中はそこに滞在している。
受験者の中にアカデミーに入学を希望する子供がいる場合は、アカデミーの入学試験を受けることができる。
私はもちろん受験資格のあったダンテだけを受験させた、レオの能力がずば抜けて高いことをなぜ彼女が知っているのだろう。
疑問はあるものの飛び入学の話は受けた方が良いだろう。
ここにきて、人の家の子を呼び捨てにする彼女に違和感を感じてきた。
私の子供たちと接触したことがあるのだろうか。
「ありがとうございます。それで、ダンテはアカデミーに入学できるのでしょうか?」
私は礼を言うと、一番気になっていることを尋ねた。
ダンテがそもそも入学試験を会場を脱出せずに受けられたかどうかも心配だ。
なぜなら、彼はエスパルの学校の授業も1日たりともまともに受けたことがない。
「ダンテは本人が辛くなるかもしれないから、アカデミーには入らない方が良いのではないかしら」
女王のように偉そうにしていた彼女が少し考えながら話しているのが分かった。
人の心に配慮するような女とは思えないし、この言い方だと入学試験は突破してそうだ。
ダンテが試験中問題行動でも起こしたのだろうか、でも入学資格がある以上は入学させてもらう。
弟のレオだけが特別待遇で入学できるなんて、ダンテが傷つくに決まっている。
「ダンテは入学試験を突破したのですよね。それならば入学を希望します」
私は少し戸惑った感情を隠しきれていない彼女に対して言い切った。
彼女は了承したようで、新たに書類の束を渡しながら言ってきた。
「この書類を砂時計が落ちるまでに全部覚えて、覚えたらあそこの暖炉で書類を完全に燃やしなさい。終わり次第、部屋を出ること」
彼女の言葉はまたしても私を驚かせた。
砂時計が落ちるまでの、高速暗記はエスパルの教育法だ。
なんの意味もない言葉を砂時計が落ちるまで全て暗記する。
10時間の授業ののち帰宅時に行われるこの高速暗記は、間違えるとまた新しい書類の束を渡され覚える。
ダンテが唯一得意な科目だった。
彼は砂時計が落ちるどころか、書類を捲るだけで全てを覚えた。
ダンテがすぐに教室から出てきてしまうので、教室の前でレオを待って帰宅した。
「言葉に関係性がないと覚えるのが難しいよ。兄上は本当にすごいよ」
レオがいつも誰からも褒められず、疎まれてしまう兄を褒めてくれるのが嬉しかった。
エスパル王国から外の世界は見ることができなかったのに、彼女はまるで私達の生活を見ていたみたいだ。
彼女が砂時計を傾けたのが見えたので、私は反射的に書類を暗記し始めた。
「任期はあなたの知っての通り4年だけど、3ヶ月は試用期間よ。使えなかったら、いつでもあなたを切り捨てるから」
彼女が部屋から去ろうとしながら、告げてきたので私は慌てて言った。
「待ってください。貴族令嬢に過ぎないアーデン侯爵令嬢より、伯爵で宰相の私の方が身分は上ですよね。どうしてあなたが私を切れるのですか?」
純粋な疑問だったし、3ヶ月の試用期間なんて酷すぎる。
3ヶ月の間に切られたら、生活費の援助も子供達のアカデミーへの教育費も打ち切られてしまう。
せっかく、頑張ろうとしている子供達の足だけは引っ張りたくない。
「3ヶ月の間に、あなたでなければできないことをしなさい」
彼女は私の質問に答えることもなく去っていった。
そもそも、面接を受ける人たちは私の他にもまだ残っていたはずだ。
彼女がこの面接室をためらうことなく去っていたことに疑問が残った。
皇帝陛下を気遣うようなことを言いながら、残りの受験者の面接は陛下にお任せするのだろうか。
とにかく、今は彼女に言われた通り時間内に書類を覚えねばならない。
彼女は姿が見えなくなっても、どこで見ているのかわからない怖さがある。
彼女に言われた通り、全てを暗記し書類を破棄して部屋を出た。
面接の待機室に行くと、受験者は面接を終えたものばかりで荷物を取りに来てただけだった。
私の面接が長かったのだろうか、皇帝陛下の面接試験の回し方が早かったのかわからないが不思議だった。
「アーデン侯爵令嬢、美しい上にお優しい方だったよ。」
ダンテとレオが待つ部屋に戻る途中、聞こえてきた人間の言葉に耳を疑ってしまった。
おそらく、言葉の主は試験に落ちているだろう。
彼女は自分の評判を上げるように、選ばなかった者には優しく接したのだ。
「初めまして、美しいレディー、レディーをお部屋までエスコートさせて頂けませんか?」
突然後ろからまるで誘うような声がした。
男の魅惑的な声に振り向くと、美しい黒髪に藍色の瞳をした男性が私を見つめていた。
彼女はまた新たな書類の束をいくつか用意しながら告げて来る。
私のどこが利己的だというのか、子供思いの良いお母さんではないか。
悪事など生まれてこのかた働いたことはない。
「あなたの9年に及ぶ結婚詐欺が露見しなかったのは、あなた自身が全く罪悪感を持ってなかったからよ」
彼女は戸惑っている私を見て続けてきた。
なぜ私が罪悪感を持たなければならないのか全く理解できなかった。
自分にとって必要だからしたことだけだ。
私は自分以上に子供たちを大事に思っているが、自分のことだって大事に決まっている。
私が私を愛し続けるためにすることは悪事でもなんでもない。
帝国の前の宰相はカルマン公爵だ。
エスパル王国を私物化してきたヴィラン公爵をマイルドにしたような悪人。
彼の悪事は現皇帝陛下アラン・レオハードによって明らかにされたという。
カルマン公爵はアラン皇帝の母君のご実家であり、彼自身最大の後ろ盾だったはずだ。
にもかかわらず、皇帝陛下はカルマン公爵家を粛清した。
私が彼と会う前から彼を公平な方だと信頼している理由の1つだ。
「待ってください。私、何か悪いことさせられるのですか? 悪事が露見したら粛清されるのではないのですか?」
アーデン侯爵令嬢は私に悪事を働かせるつもりなのだろうか。
万が一悪事が公になったらトカゲの尻尾切りのように捨てられ、子供達にも被害が及ぶに違いない。
「あなたは自分の目的のためにすることを悪事と認識しない人間。他の人から見たら悪事に見えてしまうかもしれないわね。露見するようなことがあっても、子供達はアーデン侯爵家の養子にするから安全よ」
アーデン侯爵令嬢がうっすら優しく微笑みながら言ってきた。
思わず見惚れてしまうが、私のことは助けるつもりはないと言われた気がする。
あまりに彼女のきつい言葉に晒されたせいか、子供の安全を保証されただけで少し感動されてしまっている。
なんだろう、一種のマインドコントロールのようなことをされているのだろうか。
長きに渡るエスパルの洗脳教育にも屈しなかった私に限ってそんなはずはない。
「私達、臣下がすべきことは皇帝陛下の歩む道の小石を足元を見ないで済むくらい拾うこと。陛下の理想を実現するため心を砕くこと」
アーデン侯爵令嬢の真剣な眼差しに思わず背筋が伸びた。
このような女王様のような振る舞いをする彼女から自分を臣下などと呼ぶ言葉が出るとは意外だった。
「それから、子供達の学校の件だけどアカデミーにレオは飛び入学で入学手続きをするつもりよ」
彼女の言葉に驚いた。
12歳から後継者を養成するアカデミーでの教育が受けられるとあったので、ダンテの入学を希望することとレオは12歳になり次第入学希望と書いていた。
飛び入学の制度なんて書いていなかったが、レオはエスパルでも有名な天才だし可能だという判断なのだろうか。
この帝国の採用試験の受験者は皇宮に部屋を用意され試験中はそこに滞在している。
受験者の中にアカデミーに入学を希望する子供がいる場合は、アカデミーの入学試験を受けることができる。
私はもちろん受験資格のあったダンテだけを受験させた、レオの能力がずば抜けて高いことをなぜ彼女が知っているのだろう。
疑問はあるものの飛び入学の話は受けた方が良いだろう。
ここにきて、人の家の子を呼び捨てにする彼女に違和感を感じてきた。
私の子供たちと接触したことがあるのだろうか。
「ありがとうございます。それで、ダンテはアカデミーに入学できるのでしょうか?」
私は礼を言うと、一番気になっていることを尋ねた。
ダンテがそもそも入学試験を会場を脱出せずに受けられたかどうかも心配だ。
なぜなら、彼はエスパルの学校の授業も1日たりともまともに受けたことがない。
「ダンテは本人が辛くなるかもしれないから、アカデミーには入らない方が良いのではないかしら」
女王のように偉そうにしていた彼女が少し考えながら話しているのが分かった。
人の心に配慮するような女とは思えないし、この言い方だと入学試験は突破してそうだ。
ダンテが試験中問題行動でも起こしたのだろうか、でも入学資格がある以上は入学させてもらう。
弟のレオだけが特別待遇で入学できるなんて、ダンテが傷つくに決まっている。
「ダンテは入学試験を突破したのですよね。それならば入学を希望します」
私は少し戸惑った感情を隠しきれていない彼女に対して言い切った。
彼女は了承したようで、新たに書類の束を渡しながら言ってきた。
「この書類を砂時計が落ちるまでに全部覚えて、覚えたらあそこの暖炉で書類を完全に燃やしなさい。終わり次第、部屋を出ること」
彼女の言葉はまたしても私を驚かせた。
砂時計が落ちるまでの、高速暗記はエスパルの教育法だ。
なんの意味もない言葉を砂時計が落ちるまで全て暗記する。
10時間の授業ののち帰宅時に行われるこの高速暗記は、間違えるとまた新しい書類の束を渡され覚える。
ダンテが唯一得意な科目だった。
彼は砂時計が落ちるどころか、書類を捲るだけで全てを覚えた。
ダンテがすぐに教室から出てきてしまうので、教室の前でレオを待って帰宅した。
「言葉に関係性がないと覚えるのが難しいよ。兄上は本当にすごいよ」
レオがいつも誰からも褒められず、疎まれてしまう兄を褒めてくれるのが嬉しかった。
エスパル王国から外の世界は見ることができなかったのに、彼女はまるで私達の生活を見ていたみたいだ。
彼女が砂時計を傾けたのが見えたので、私は反射的に書類を暗記し始めた。
「任期はあなたの知っての通り4年だけど、3ヶ月は試用期間よ。使えなかったら、いつでもあなたを切り捨てるから」
彼女が部屋から去ろうとしながら、告げてきたので私は慌てて言った。
「待ってください。貴族令嬢に過ぎないアーデン侯爵令嬢より、伯爵で宰相の私の方が身分は上ですよね。どうしてあなたが私を切れるのですか?」
純粋な疑問だったし、3ヶ月の試用期間なんて酷すぎる。
3ヶ月の間に切られたら、生活費の援助も子供達のアカデミーへの教育費も打ち切られてしまう。
せっかく、頑張ろうとしている子供達の足だけは引っ張りたくない。
「3ヶ月の間に、あなたでなければできないことをしなさい」
彼女は私の質問に答えることもなく去っていった。
そもそも、面接を受ける人たちは私の他にもまだ残っていたはずだ。
彼女がこの面接室をためらうことなく去っていたことに疑問が残った。
皇帝陛下を気遣うようなことを言いながら、残りの受験者の面接は陛下にお任せするのだろうか。
とにかく、今は彼女に言われた通り時間内に書類を覚えねばならない。
彼女は姿が見えなくなっても、どこで見ているのかわからない怖さがある。
彼女に言われた通り、全てを暗記し書類を破棄して部屋を出た。
面接の待機室に行くと、受験者は面接を終えたものばかりで荷物を取りに来てただけだった。
私の面接が長かったのだろうか、皇帝陛下の面接試験の回し方が早かったのかわからないが不思議だった。
「アーデン侯爵令嬢、美しい上にお優しい方だったよ。」
ダンテとレオが待つ部屋に戻る途中、聞こえてきた人間の言葉に耳を疑ってしまった。
おそらく、言葉の主は試験に落ちているだろう。
彼女は自分の評判を上げるように、選ばなかった者には優しく接したのだ。
「初めまして、美しいレディー、レディーをお部屋までエスコートさせて頂けませんか?」
突然後ろからまるで誘うような声がした。
男の魅惑的な声に振り向くと、美しい黒髪に藍色の瞳をした男性が私を見つめていた。