サイコな結婚詐欺師は恋に仕事に子育てに今日も忙しい。
9.リーザ、心を惹かれる。
「あちらに見える、皇后宮は中央宮の次に立派な建物ですよね。子爵邸もあれくらいの感じなんです。領民が苦しんでるのに、自分達は皇族のような邸宅で生活を送っていたんです」
彼が指差す方向を見ると、豪華絢爛な建物が見えた。
「使用人をホテルの従業員にするつもりです。高位貴族の真似事のように身の回りの世話をさせていました。俺は従業員と同じように子爵邸の一室に住もうと思っています」
彼が新しいサンドイッチを私に渡しながら言ってきた。
「皇宮の調理場を借りて、ホテルのアフタヌーンティーに出すサンドイッチの試作をしていたんです。料理長の方が親切にも余った食材をくださって色々なサンドイッチができました」
彼のいう通り、サンドイッチの具材は珍しいものが多そうだ。
今私が食べているのはサバサンドで、カゴの中を見る限り、肉や野菜のサンドイッチもある。
「季節ごとの植物を植えて植物園を作るつもりです。侯爵令嬢が花の種は安価だと言っていたので⋯⋯」
彼の発する言葉に私は初めての嫉妬心を感じていた。
さっきから、アーデン侯爵令嬢の言いなりになっている話を聞かされている。
「先程は俺がしゃがんでいて驚かせてしまいましたよね。土を取っていたんです。土壌が悪いと言われる子爵領の土と比べてみたくて」
彼が恥ずかしそうに言ってきた。
私の見る限り彼は女の言いなりに動くしかない男ではない。
自分で考えて色々と試みている思慮深い人だ。
「アフタヌーンティーに出す予定というサンドイッチですが、植物園を馬車で巡りながら提供してみてはどうですか?」
私はアーデン侯爵令嬢への敗北感は持っていたが、彼の中での彼女にだけは負けたくなかった。
「馬車に乗りながら、軽食を出し植物園を巡るということですよね。新しいですね、さすがアーデン侯爵令嬢が宰相に選ばれた方です」
彼が嬉しそうに私に言ってきた。
こんな切ない気持ちにさせられたのは生まれて初めてだ。
なぜ、そんなにアーデン侯爵令嬢に囚われてるのか。
生まれて初めての感情をくれる彼を大切に思いながらも、辛い気持ちにさせられた。
「俺の相談に乗ってもらってばかりですみません、リーザ様のお話も聞きたいです」
彼の話を聞きたかった、でも私の話もしたかった。
「アーデン侯爵令嬢は事実しか言わないとおっしゃっていましたが、上の子を始末するようなことを言われたのです。12歳の子供に対してそのようなことをする方ですか?」
私の不安を彼に打ち明けることにした。
いくら、冷酷な人間でも子供を手にかけることがあるのだろうか。
エスパルの平民でさえ殺し合いの訓練をするのは15歳からだ。
「12歳は彼女にとって子供ではないのかも知れません。彼女は5歳の時から実業家として成功していましたし」
彼の言葉に私はショックを受けた。
散々自分が生きるために人を殺させられてきた私でさえそんな幼い子に手を掛けたことはない。
でも、彼の話に寄れば彼女は本気で12歳のダンテを殺すと脅してきたのだ。
「どうして、そんな話になったのですか?」
彼が心配そうに聞いてくるので、私はダンテの命を守る手掛かりを見つけるために全て明かすことにした。
口ぶりから見るに私より彼はエレナ・アーデンを知っていそうだ。
「私が、彼女は老け顔だから私の方が皇帝陛下にお似合いと言ったこと言ったらそう言われました」
彼女の殺意に満ちた目を思い出した、あれは殺しをしたことのある人間だ。
彼に他の男を狙っていたと気づかれるのは嫌だけど、ダンテの安全にはかえられない。
「皇帝陛下のことに触れたのが不味かったと思います。彼女にとって皇帝陛下は全てなのです。彼に手を出すならあなたの1番大切なものを失うという意味だと思います」
彼が少し考えながらも言った言葉に、私はできる限り皇帝陛下に近づかないことにした。
「俺には兄がいました。兄は病弱で10歳の時に亡くなりましたが、家では彼は後継者として両親の注目を集めていて寂しかったです」
彼が突然、自分の身の上話を始めたので私は聞き入った。
「彼が亡くなった後、両親の注目が俺に集まりました。そのことで俺はより自分の親に対して見たい部分だけを見るようになっていた気がします。どんなに頑張っても見てもらえなかったのに、ようやく見てもらえたから」
彼は自分が父の悪政に気がつけなかった言い訳をしてしまったと自嘲的に付け加えながら話した。
彼は、私が自分の息子を無意識に差別していることを、私を傷つけないように伝えたかったのだ。
アーデン侯爵令嬢が始末すると言ったのはエスパルで国宝のよう扱われていた天才少年の弟レオではなく、問題児の兄ダンテだった。
それは私自身が無意識にレオよりダンテを大切にしているというのをアーデン侯爵令嬢に気が付かれてしまったからだ。
そして、そのことを今エドワード様にも指摘されてしまっている。
彼の思いやりと鋭い洞察力を、知るたびに私には彼が必要だと感じてしまう。
「今日が初出勤だったのですが、午前中は事務処理に追われ、お昼にみんなが部屋を出ていた後はどうすれば良いか分からなかったんです」
私は気がつけば、不安で仕方がないことを相談していた。
「宰相自ら事務処理をする必要はありません。皇帝陛下の理想を遂げるための政策立案能力を期待されスモア伯爵は抜擢されているはずです」
彼の言葉に驚いてしまった、私はやはり経験者だという方に頼ろうとしてしまって指示を出すことがなかったからだ。
「行政官たちはいずれも事務処理能力の高い方でしょうから任せて大丈夫です。それとお昼は行政官に用意するように伝えれば経費で落とせますよ」
彼の言葉にまた驚きつつも、今朝のオドオドした自分の姿を思い出し恥ずかしくなった。
「それと、お昼は必ずいずれかの行政官が部屋に留まるよう調整するように指示してください。機密書類のある部屋に人が居ない状態はまずいです」
彼の話はありがたい、強気の私もあの部屋から誰も居なくなることに不安を感じつつも初めての場所のルールがわからず戸惑ってしまった。
「私、失敗しました。どうしたら良いか分からなくて、他の行政官からやるべきこと教わってしまいました」
私は、彼に今朝の状況を打ち明けた。
「それはいけないですね、状況を逆手にとりましょう。この後遅めに戻ってください。遅かったと言われたら舐められたかも知れません。当然仕事が終わってると思って戻ってきたのにガッカリしたとでも返してください」
彼の言葉に私はハッとした。
「宰相は常に行政部にいなければいけないわけではありません。皇帝陛下とのご用事は当然優先されるべきです。他の行政官にスモア伯爵の予定を管理する権限はありません」
彼に話を教わって助かった。
確かに私は午前中、上司とは思えないような時間を過ごしてしまった。
「急にかわったスモア伯爵の態度に、午前中は試されていたと彼らは思うでしょう。曲者だと思われた方が、彼らは気を引き締めて従ってくるはずです。」
彼は非常に聡明な人だ、駆け引きもできる大人なのに彼自身に自信がないのが勿体無くて仕方がない。
「皇帝陛下にはお会いになりましたか?謁見要請をすれば優先されるはずです。天界から迷い込んで来られたような方で会うと心のモヤモヤを晴らして頂けますよ。」
彼の言葉に静かに頷くことしかできなかった。
皇帝陛下が立派な方だなんて想像はしていたが、彼に会って見初められでもしたらエレナ・アーデンに殺されてしまいそうで怖いのだ。
だから、明日の午後の貴族会議で挨拶することにしたのだ。
「私には12歳と、10歳の息子がいて、アカデミーに通わせてもらえることになったんですが、侯爵令嬢に上の子が、ダンテが苦しい思いをすると言われました。確かにダンテは制御できないところがあって。」
アーデン侯爵令嬢の殺意に満ちた瞳を思い出し、私は不安を彼に打ち明けていた。
エスパルの学校でもダンテは問題児扱いされていた。
教室を飛び出したり、教師を質問攻めにして授業を妨害してしまったりした。
それを、まるで知ったように侯爵令嬢に指摘されたのが辛かったのだ。
「アーデン侯爵令嬢が苦しい思いをするとおっしゃったのですか?もしかしてダンテ様はとんでもない天才だったりしませんか?」
彼が驚いたように言った言葉に、私は首を傾げてしまった。
「それはないです。エスパルでの学業成績も最低でした。私は彼にも何か才能があると信じていましたが。」
私はいつもダンテの才能を信じていた、でも何もなくても彼は私にとって最愛の子だ。
「アーデン侯爵令嬢は皇帝陛下以外の気持ちは考えない方です。彼女が彼が苦しい思いをすると言ったのは、彼女自身がアカデミーで同じ思いをしたかも知れません。」
彼が声を潜めて話し出したので、私も耳を傾けた。
「アーデン侯爵令嬢と俺はアカデミー同期です。彼女は10歳で初めて飛び入学が認められた人です。飛び入学の制度自体ありませんでしたが、すでに大人の世界で実業家として成功している彼女の入学は許可されました。」
彼の話から察するに彼は今侯爵令嬢の2歳年上の20歳と言うことだ。
「私の方が年下だ。私18歳だし。」
私は癖で思わず言ってしまった、彼が驚いてるのも無理はない12歳の子がいると話した後だ。
「すみません。私、心はいつも18歳なんです。お話続けてください。」
とにかく彼の話が聞きたい、だって彼の話によるとレオはかなり特例措置をしてもらっている。
彼が指差す方向を見ると、豪華絢爛な建物が見えた。
「使用人をホテルの従業員にするつもりです。高位貴族の真似事のように身の回りの世話をさせていました。俺は従業員と同じように子爵邸の一室に住もうと思っています」
彼が新しいサンドイッチを私に渡しながら言ってきた。
「皇宮の調理場を借りて、ホテルのアフタヌーンティーに出すサンドイッチの試作をしていたんです。料理長の方が親切にも余った食材をくださって色々なサンドイッチができました」
彼のいう通り、サンドイッチの具材は珍しいものが多そうだ。
今私が食べているのはサバサンドで、カゴの中を見る限り、肉や野菜のサンドイッチもある。
「季節ごとの植物を植えて植物園を作るつもりです。侯爵令嬢が花の種は安価だと言っていたので⋯⋯」
彼の発する言葉に私は初めての嫉妬心を感じていた。
さっきから、アーデン侯爵令嬢の言いなりになっている話を聞かされている。
「先程は俺がしゃがんでいて驚かせてしまいましたよね。土を取っていたんです。土壌が悪いと言われる子爵領の土と比べてみたくて」
彼が恥ずかしそうに言ってきた。
私の見る限り彼は女の言いなりに動くしかない男ではない。
自分で考えて色々と試みている思慮深い人だ。
「アフタヌーンティーに出す予定というサンドイッチですが、植物園を馬車で巡りながら提供してみてはどうですか?」
私はアーデン侯爵令嬢への敗北感は持っていたが、彼の中での彼女にだけは負けたくなかった。
「馬車に乗りながら、軽食を出し植物園を巡るということですよね。新しいですね、さすがアーデン侯爵令嬢が宰相に選ばれた方です」
彼が嬉しそうに私に言ってきた。
こんな切ない気持ちにさせられたのは生まれて初めてだ。
なぜ、そんなにアーデン侯爵令嬢に囚われてるのか。
生まれて初めての感情をくれる彼を大切に思いながらも、辛い気持ちにさせられた。
「俺の相談に乗ってもらってばかりですみません、リーザ様のお話も聞きたいです」
彼の話を聞きたかった、でも私の話もしたかった。
「アーデン侯爵令嬢は事実しか言わないとおっしゃっていましたが、上の子を始末するようなことを言われたのです。12歳の子供に対してそのようなことをする方ですか?」
私の不安を彼に打ち明けることにした。
いくら、冷酷な人間でも子供を手にかけることがあるのだろうか。
エスパルの平民でさえ殺し合いの訓練をするのは15歳からだ。
「12歳は彼女にとって子供ではないのかも知れません。彼女は5歳の時から実業家として成功していましたし」
彼の言葉に私はショックを受けた。
散々自分が生きるために人を殺させられてきた私でさえそんな幼い子に手を掛けたことはない。
でも、彼の話に寄れば彼女は本気で12歳のダンテを殺すと脅してきたのだ。
「どうして、そんな話になったのですか?」
彼が心配そうに聞いてくるので、私はダンテの命を守る手掛かりを見つけるために全て明かすことにした。
口ぶりから見るに私より彼はエレナ・アーデンを知っていそうだ。
「私が、彼女は老け顔だから私の方が皇帝陛下にお似合いと言ったこと言ったらそう言われました」
彼女の殺意に満ちた目を思い出した、あれは殺しをしたことのある人間だ。
彼に他の男を狙っていたと気づかれるのは嫌だけど、ダンテの安全にはかえられない。
「皇帝陛下のことに触れたのが不味かったと思います。彼女にとって皇帝陛下は全てなのです。彼に手を出すならあなたの1番大切なものを失うという意味だと思います」
彼が少し考えながらも言った言葉に、私はできる限り皇帝陛下に近づかないことにした。
「俺には兄がいました。兄は病弱で10歳の時に亡くなりましたが、家では彼は後継者として両親の注目を集めていて寂しかったです」
彼が突然、自分の身の上話を始めたので私は聞き入った。
「彼が亡くなった後、両親の注目が俺に集まりました。そのことで俺はより自分の親に対して見たい部分だけを見るようになっていた気がします。どんなに頑張っても見てもらえなかったのに、ようやく見てもらえたから」
彼は自分が父の悪政に気がつけなかった言い訳をしてしまったと自嘲的に付け加えながら話した。
彼は、私が自分の息子を無意識に差別していることを、私を傷つけないように伝えたかったのだ。
アーデン侯爵令嬢が始末すると言ったのはエスパルで国宝のよう扱われていた天才少年の弟レオではなく、問題児の兄ダンテだった。
それは私自身が無意識にレオよりダンテを大切にしているというのをアーデン侯爵令嬢に気が付かれてしまったからだ。
そして、そのことを今エドワード様にも指摘されてしまっている。
彼の思いやりと鋭い洞察力を、知るたびに私には彼が必要だと感じてしまう。
「今日が初出勤だったのですが、午前中は事務処理に追われ、お昼にみんなが部屋を出ていた後はどうすれば良いか分からなかったんです」
私は気がつけば、不安で仕方がないことを相談していた。
「宰相自ら事務処理をする必要はありません。皇帝陛下の理想を遂げるための政策立案能力を期待されスモア伯爵は抜擢されているはずです」
彼の言葉に驚いてしまった、私はやはり経験者だという方に頼ろうとしてしまって指示を出すことがなかったからだ。
「行政官たちはいずれも事務処理能力の高い方でしょうから任せて大丈夫です。それとお昼は行政官に用意するように伝えれば経費で落とせますよ」
彼の言葉にまた驚きつつも、今朝のオドオドした自分の姿を思い出し恥ずかしくなった。
「それと、お昼は必ずいずれかの行政官が部屋に留まるよう調整するように指示してください。機密書類のある部屋に人が居ない状態はまずいです」
彼の話はありがたい、強気の私もあの部屋から誰も居なくなることに不安を感じつつも初めての場所のルールがわからず戸惑ってしまった。
「私、失敗しました。どうしたら良いか分からなくて、他の行政官からやるべきこと教わってしまいました」
私は、彼に今朝の状況を打ち明けた。
「それはいけないですね、状況を逆手にとりましょう。この後遅めに戻ってください。遅かったと言われたら舐められたかも知れません。当然仕事が終わってると思って戻ってきたのにガッカリしたとでも返してください」
彼の言葉に私はハッとした。
「宰相は常に行政部にいなければいけないわけではありません。皇帝陛下とのご用事は当然優先されるべきです。他の行政官にスモア伯爵の予定を管理する権限はありません」
彼に話を教わって助かった。
確かに私は午前中、上司とは思えないような時間を過ごしてしまった。
「急にかわったスモア伯爵の態度に、午前中は試されていたと彼らは思うでしょう。曲者だと思われた方が、彼らは気を引き締めて従ってくるはずです。」
彼は非常に聡明な人だ、駆け引きもできる大人なのに彼自身に自信がないのが勿体無くて仕方がない。
「皇帝陛下にはお会いになりましたか?謁見要請をすれば優先されるはずです。天界から迷い込んで来られたような方で会うと心のモヤモヤを晴らして頂けますよ。」
彼の言葉に静かに頷くことしかできなかった。
皇帝陛下が立派な方だなんて想像はしていたが、彼に会って見初められでもしたらエレナ・アーデンに殺されてしまいそうで怖いのだ。
だから、明日の午後の貴族会議で挨拶することにしたのだ。
「私には12歳と、10歳の息子がいて、アカデミーに通わせてもらえることになったんですが、侯爵令嬢に上の子が、ダンテが苦しい思いをすると言われました。確かにダンテは制御できないところがあって。」
アーデン侯爵令嬢の殺意に満ちた瞳を思い出し、私は不安を彼に打ち明けていた。
エスパルの学校でもダンテは問題児扱いされていた。
教室を飛び出したり、教師を質問攻めにして授業を妨害してしまったりした。
それを、まるで知ったように侯爵令嬢に指摘されたのが辛かったのだ。
「アーデン侯爵令嬢が苦しい思いをするとおっしゃったのですか?もしかしてダンテ様はとんでもない天才だったりしませんか?」
彼が驚いたように言った言葉に、私は首を傾げてしまった。
「それはないです。エスパルでの学業成績も最低でした。私は彼にも何か才能があると信じていましたが。」
私はいつもダンテの才能を信じていた、でも何もなくても彼は私にとって最愛の子だ。
「アーデン侯爵令嬢は皇帝陛下以外の気持ちは考えない方です。彼女が彼が苦しい思いをすると言ったのは、彼女自身がアカデミーで同じ思いをしたかも知れません。」
彼が声を潜めて話し出したので、私も耳を傾けた。
「アーデン侯爵令嬢と俺はアカデミー同期です。彼女は10歳で初めて飛び入学が認められた人です。飛び入学の制度自体ありませんでしたが、すでに大人の世界で実業家として成功している彼女の入学は許可されました。」
彼の話から察するに彼は今侯爵令嬢の2歳年上の20歳と言うことだ。
「私の方が年下だ。私18歳だし。」
私は癖で思わず言ってしまった、彼が驚いてるのも無理はない12歳の子がいると話した後だ。
「すみません。私、心はいつも18歳なんです。お話続けてください。」
とにかく彼の話が聞きたい、だって彼の話によるとレオはかなり特例措置をしてもらっている。