底辺令嬢はエリート魔法師に甘やかされる
二日目の餌付け
「シャル……! 奇跡だ……! 今日も俺の部屋にシャルがいる……!」
二日目の朝は、ラメルの咽むせび泣く声に迎えられながら目覚めた。
「ありがとう……今日も……シャルが……可愛い……!」
(美形は泣いていても美しさが損なわれないものなんだなぁ)
シャルロットは寝ぼけ眼まなこのまま、美しくハラハラと涙を流す美形ラメルを眺めていた。今日もカーテンの隙間から朝日が部屋に差し込み、ラメルの美しさを引き立たせるようにきらめいている。
昨日はお出かけのあと、侍女の方にお風呂にまで入れてもらって、とてもいい気持ちで眠った。大変可愛いがられている自覚はあるシャルロットは、お風呂もラメルと一緒に入ることになるのかと恐れていた。――が、予想に反して「シャルは女の子だからな」と、ラメルは猫好きの侍女にシャルロットを託した。シャルロットは気が緩んだのか、お風呂の最中で記憶が途切れているので、おそらくそのまま眠ってしまったのだろうと思った。そして目が覚めると昨日と同様、ラメル用の大きなベッドを猫のシャルロットが占領していたのである。
(今日は美しく涙を流すラメルで視界が埋め尽くされているわ)
しかも、泣いている理由が「シャルがラメルの寝室にいる」そして「シャルが可愛い」である。天下の“至宝の魔法師ラメル”が猫を前にするとこんなにも残念になるのかと、シャルロットは感動すら覚えた。
ちょっと猫好きが高じている感は否めないけれど、高位貴族にもなると、自由に生き物を愛でることも難しいのかもしれないとシャルロットは想像した。
(それはそれで、かわいそうね……)
結果、シャルロットは猫としての矜持プライドを大いにくすぐられた。
(いいわ。私は今、猫だもの。存分に可愛がられてやるわ……!)
ある意味、シャルロットが腹を括った瞬間だった。
◆◆◆
シャルロットにはそんなことを考えていた時期もあった。
――が、その数時間後には、ゴロゴロとラメルに甘えるだけのただの幸せな猫がラメルの腕の中にいた。
(私、ずっとラメルの猫でいいかも。幸せ……)
シャルロットはラメルの腕に抱かれながら、クロテッド侯爵家お抱えのシェフ作製のデザートにメロメロになっていた。
「シャル、おいしい? ほら、まだたくさんあるよ。あーん」
シャルロットはラメルに言われるがまま、あーんと口を開き、舌の上にのせられた甘くてとろける何かの味を楽しんだ。
シャルロットは、生家のティアーズ公爵家ではなかなか部屋から出ることが叶わなかったが、唯一、厨房だけは出入りが許されていた。その理由は食事を摂るのが厨房だったからであったが、シャルロットの限られた世界の中で、厨房だけが自分が自由にできる大切な場所だった。厨房に通ううちにシェフとも仲良くなり、こっそりもらったお菓子のあまりのおいしさに魅了され、その作り方を習うようになった。
そういう経緯もあって、お菓子作りを趣味にもしているシャルロットは、お菓子の味にはこだわりがある。しかし、シェフもティアーズ公爵家に雇われている身なので、使える食材や提供できるレシピにも限りがある。
けれど、このままラメルの猫でいれば、きっとラメルは際限なくおいしい未知のお菓子を与え続けてくれるはずだ。二日目にしてそう断言できるだけの愛をシャルロットはすでに享受きょうじゅしていた。
(こんなの初めて食べた……おいしい……幸せ……わたし一生ここにいる……)
シャルロットのデロデロにとろけた表情を観察しながら、ラメルも幸せそうに笑み崩れた。
「シャル、可愛い」
ラメルはすっかり目尻を下げきり、しまりのない表情をしている。シャルロットもラメルを見上げ、頬を緩めた。
その場には幸せな風景だけしかなくて、シャルロットは人生で初めて心からの平穏を手に入れた気がしていた。
二日目の朝は、ラメルの咽むせび泣く声に迎えられながら目覚めた。
「ありがとう……今日も……シャルが……可愛い……!」
(美形は泣いていても美しさが損なわれないものなんだなぁ)
シャルロットは寝ぼけ眼まなこのまま、美しくハラハラと涙を流す美形ラメルを眺めていた。今日もカーテンの隙間から朝日が部屋に差し込み、ラメルの美しさを引き立たせるようにきらめいている。
昨日はお出かけのあと、侍女の方にお風呂にまで入れてもらって、とてもいい気持ちで眠った。大変可愛いがられている自覚はあるシャルロットは、お風呂もラメルと一緒に入ることになるのかと恐れていた。――が、予想に反して「シャルは女の子だからな」と、ラメルは猫好きの侍女にシャルロットを託した。シャルロットは気が緩んだのか、お風呂の最中で記憶が途切れているので、おそらくそのまま眠ってしまったのだろうと思った。そして目が覚めると昨日と同様、ラメル用の大きなベッドを猫のシャルロットが占領していたのである。
(今日は美しく涙を流すラメルで視界が埋め尽くされているわ)
しかも、泣いている理由が「シャルがラメルの寝室にいる」そして「シャルが可愛い」である。天下の“至宝の魔法師ラメル”が猫を前にするとこんなにも残念になるのかと、シャルロットは感動すら覚えた。
ちょっと猫好きが高じている感は否めないけれど、高位貴族にもなると、自由に生き物を愛でることも難しいのかもしれないとシャルロットは想像した。
(それはそれで、かわいそうね……)
結果、シャルロットは猫としての矜持プライドを大いにくすぐられた。
(いいわ。私は今、猫だもの。存分に可愛がられてやるわ……!)
ある意味、シャルロットが腹を括った瞬間だった。
◆◆◆
シャルロットにはそんなことを考えていた時期もあった。
――が、その数時間後には、ゴロゴロとラメルに甘えるだけのただの幸せな猫がラメルの腕の中にいた。
(私、ずっとラメルの猫でいいかも。幸せ……)
シャルロットはラメルの腕に抱かれながら、クロテッド侯爵家お抱えのシェフ作製のデザートにメロメロになっていた。
「シャル、おいしい? ほら、まだたくさんあるよ。あーん」
シャルロットはラメルに言われるがまま、あーんと口を開き、舌の上にのせられた甘くてとろける何かの味を楽しんだ。
シャルロットは、生家のティアーズ公爵家ではなかなか部屋から出ることが叶わなかったが、唯一、厨房だけは出入りが許されていた。その理由は食事を摂るのが厨房だったからであったが、シャルロットの限られた世界の中で、厨房だけが自分が自由にできる大切な場所だった。厨房に通ううちにシェフとも仲良くなり、こっそりもらったお菓子のあまりのおいしさに魅了され、その作り方を習うようになった。
そういう経緯もあって、お菓子作りを趣味にもしているシャルロットは、お菓子の味にはこだわりがある。しかし、シェフもティアーズ公爵家に雇われている身なので、使える食材や提供できるレシピにも限りがある。
けれど、このままラメルの猫でいれば、きっとラメルは際限なくおいしい未知のお菓子を与え続けてくれるはずだ。二日目にしてそう断言できるだけの愛をシャルロットはすでに享受きょうじゅしていた。
(こんなの初めて食べた……おいしい……幸せ……わたし一生ここにいる……)
シャルロットのデロデロにとろけた表情を観察しながら、ラメルも幸せそうに笑み崩れた。
「シャル、可愛い」
ラメルはすっかり目尻を下げきり、しまりのない表情をしている。シャルロットもラメルを見上げ、頬を緩めた。
その場には幸せな風景だけしかなくて、シャルロットは人生で初めて心からの平穏を手に入れた気がしていた。