底辺令嬢はエリート魔法師に甘やかされる
砂糖漬けの日々
朝起きてから夜寝るまで、ラメルはシャルロットにべったりと張り付いた。そして何をするのかというと、シャルロットのことをこれでもかというほど甘やかすのみ。
「さあ、シャル、ごはんだよ? あーん」
「……にゃーん」
今日も今日とて、シャルロットはラメルの膝の上に座らされ、手ずからごはんを食べさせられていた。
(これも、これもおいしい……!)
そして、見事に餌付けされていた。
シャルロットは目を輝かせながら、口に運ばれるものを次々と頬張り、幸せそうな顔で味わった。
「にゃあん……!」
(幸せ……!)
「はは。シャルはほんっとうにかわいいなぁ」
ラメルは顔がとろけきっていて、普段の冷徹さは微塵も感じられない。せっせとシャルの口元へと食べ物を運び、表情を確認して笑み崩れるという行動を延々と繰り返していた。その間、邪魔にならない程度に頭や頬を撫でたり、キスを贈ることも忘れない。
ラメルはシャルの幸せそうな顔が見たい一心でクロテッド侯爵家のシェフに指導を入れている……という、シャルロットには知り得ない裏事情も存在していた。
「ほら、シャル。デザートもあるよ?」
「にゃぁーー!」
(やったーー!)
シャルが何よりも喜ぶのがこの“デザート”であることも知っているので、ラメルは研究を重ね、デザートを自ら作れるように成長していた。
「にゃーー! ふにゃ……」
(何これ――! おいひい……)
「よくできているだろう? これは俺が作ったんだよ。シャルのためにね」
シャルロットはデザートに出てきた“シャーベット”をほおばり、口の中の幸せを感じていたが、これをラメルが作ったと聞いて驚いた。
「ふにゃにゃ……」
(“規格外”の魔法師はなんでもできちゃうのね……)
「シャル……あなたは本当にかわいいね……」
シャルロットはまたもやラメルに抱きしめられ、顔中にキスを贈られていた。三日もキス魔の相手をしていると慣れてきてしまうようで、顔中に熱烈なキスを降らされようと、シャルロットはあまり動じなくなってきていた。身体が震えないのも、嫌悪感すら存在しないのも、全てはきっと“猫化”したせいだと結論づけていた。
(まあ、猫相手にしてることだしね。気にしてても仕方ないわ……)
それよりも、シャルロットには気になっていることがあった。
(でも……私が“猫化”した人間だって気づいていないということでもあるのよね。やっぱり、私からは魔力がほとんど感じられないから、さすがのラメルもわからないのだわ)
正直、ラメルのそばにいるのはシャルロットにとってとても居心地がよかった。
ラメルは本当に猫が好きなようで、ずっとシャルロットのそばにいて、甲斐甲斐しく世話を焼き、これ以上ないほどかわいがる。人に触れられることが苦手なはずのシャルロットがスキンシップに慣れてしまうほどに。
(……でも、これでよかったのかもしれないわ)
今回はラメルに甘えて猫化を解除してもらったとして、これからまた魔法で同じような攻撃を受けたときは? 自分で解決できないなら、自立なんて夢のまた夢だ、シャルロットはそう考えて憂鬱になった。
(だって、私には……魔法が使えない。使い方もわからない)
いろいろ試してみたが、シャルロットの魔力孔は全く開くそぶりがなかった。だから薄々覚悟を決め始めていたのだ。シャルロットには一・生・魔・法・が・使・え・な・い・のだと――。
(それなら、居心地のいいラメルの猫でいるのも案外いい選択かもしれない)
シャルロットは、そう考え始めていた。
けれど……。
――ラメルと暮らし始めて五日目。
寝るとき、起きたとき、ごはんのとき……。どんなときもずっとシャルロットと一緒にいてくれるラメル。けれど唯一、シャルロットが眠りについたあとに、シャルロットに背を向けるラメルの姿を見つけた。
それは、ラメルがあまりにも上手に背中を撫でるので、シャルロットがつい昼寝をしてしまった四日目の夜のこと。ふと目が覚めて辺りを見回すと、近くのソファで寝ているはずのラメルがいなかったのだ。
(あれ……? ラメル、どこ……?)
心細くなってラメルの姿を探すと、最小限の光を灯して机に向かうラメルを見つけたのである。机の上には乱雑に魔法書が積み重ねられていて、魔法を勉強しているのだと察せられた。
(そっか。ラメルはすごい才能を持つ魔法師だけど、努力もしているのだわ)
それに比べ、シャルロットはどうだろう。ラメルの時間を奪って、こんな夜更けに小さな光の下で勉強させてしまっている。そんな私が、ラメルのそばにいたいと言っても許されるのだろうか。
(どこかに甘えがあったのではないかしら? できるはずがないって決めつけがあったかもしれないわ)
魔法書を読み進めながら、一心不乱に筆を走らせるラメルの後ろ姿を見て、シャルロットは考えを改める。
(それに、こんなに毎日甘やかされてばかりではダメになってしまう……!)
シャルロットは決意を固め、ラメルと暮らし始めて五日目を迎える日に、行動を起こした。
「さあ、シャル、ごはんだよ? あーん」
「……にゃーん」
今日も今日とて、シャルロットはラメルの膝の上に座らされ、手ずからごはんを食べさせられていた。
(これも、これもおいしい……!)
そして、見事に餌付けされていた。
シャルロットは目を輝かせながら、口に運ばれるものを次々と頬張り、幸せそうな顔で味わった。
「にゃあん……!」
(幸せ……!)
「はは。シャルはほんっとうにかわいいなぁ」
ラメルは顔がとろけきっていて、普段の冷徹さは微塵も感じられない。せっせとシャルの口元へと食べ物を運び、表情を確認して笑み崩れるという行動を延々と繰り返していた。その間、邪魔にならない程度に頭や頬を撫でたり、キスを贈ることも忘れない。
ラメルはシャルの幸せそうな顔が見たい一心でクロテッド侯爵家のシェフに指導を入れている……という、シャルロットには知り得ない裏事情も存在していた。
「ほら、シャル。デザートもあるよ?」
「にゃぁーー!」
(やったーー!)
シャルが何よりも喜ぶのがこの“デザート”であることも知っているので、ラメルは研究を重ね、デザートを自ら作れるように成長していた。
「にゃーー! ふにゃ……」
(何これ――! おいひい……)
「よくできているだろう? これは俺が作ったんだよ。シャルのためにね」
シャルロットはデザートに出てきた“シャーベット”をほおばり、口の中の幸せを感じていたが、これをラメルが作ったと聞いて驚いた。
「ふにゃにゃ……」
(“規格外”の魔法師はなんでもできちゃうのね……)
「シャル……あなたは本当にかわいいね……」
シャルロットはまたもやラメルに抱きしめられ、顔中にキスを贈られていた。三日もキス魔の相手をしていると慣れてきてしまうようで、顔中に熱烈なキスを降らされようと、シャルロットはあまり動じなくなってきていた。身体が震えないのも、嫌悪感すら存在しないのも、全てはきっと“猫化”したせいだと結論づけていた。
(まあ、猫相手にしてることだしね。気にしてても仕方ないわ……)
それよりも、シャルロットには気になっていることがあった。
(でも……私が“猫化”した人間だって気づいていないということでもあるのよね。やっぱり、私からは魔力がほとんど感じられないから、さすがのラメルもわからないのだわ)
正直、ラメルのそばにいるのはシャルロットにとってとても居心地がよかった。
ラメルは本当に猫が好きなようで、ずっとシャルロットのそばにいて、甲斐甲斐しく世話を焼き、これ以上ないほどかわいがる。人に触れられることが苦手なはずのシャルロットがスキンシップに慣れてしまうほどに。
(……でも、これでよかったのかもしれないわ)
今回はラメルに甘えて猫化を解除してもらったとして、これからまた魔法で同じような攻撃を受けたときは? 自分で解決できないなら、自立なんて夢のまた夢だ、シャルロットはそう考えて憂鬱になった。
(だって、私には……魔法が使えない。使い方もわからない)
いろいろ試してみたが、シャルロットの魔力孔は全く開くそぶりがなかった。だから薄々覚悟を決め始めていたのだ。シャルロットには一・生・魔・法・が・使・え・な・い・のだと――。
(それなら、居心地のいいラメルの猫でいるのも案外いい選択かもしれない)
シャルロットは、そう考え始めていた。
けれど……。
――ラメルと暮らし始めて五日目。
寝るとき、起きたとき、ごはんのとき……。どんなときもずっとシャルロットと一緒にいてくれるラメル。けれど唯一、シャルロットが眠りについたあとに、シャルロットに背を向けるラメルの姿を見つけた。
それは、ラメルがあまりにも上手に背中を撫でるので、シャルロットがつい昼寝をしてしまった四日目の夜のこと。ふと目が覚めて辺りを見回すと、近くのソファで寝ているはずのラメルがいなかったのだ。
(あれ……? ラメル、どこ……?)
心細くなってラメルの姿を探すと、最小限の光を灯して机に向かうラメルを見つけたのである。机の上には乱雑に魔法書が積み重ねられていて、魔法を勉強しているのだと察せられた。
(そっか。ラメルはすごい才能を持つ魔法師だけど、努力もしているのだわ)
それに比べ、シャルロットはどうだろう。ラメルの時間を奪って、こんな夜更けに小さな光の下で勉強させてしまっている。そんな私が、ラメルのそばにいたいと言っても許されるのだろうか。
(どこかに甘えがあったのではないかしら? できるはずがないって決めつけがあったかもしれないわ)
魔法書を読み進めながら、一心不乱に筆を走らせるラメルの後ろ姿を見て、シャルロットは考えを改める。
(それに、こんなに毎日甘やかされてばかりではダメになってしまう……!)
シャルロットは決意を固め、ラメルと暮らし始めて五日目を迎える日に、行動を起こした。