人生詩集・番外編

アルテミス・弥生の木の下で・2

純潔と貞淑を奉じながら同時に愛欲と多産をつかさどり、
ヘレーナーの美と愛を示しながらも、猛勇の女神アテネのごとく、狩猟と戦いに明け暮れる。
豪勇の猟師オリオーンをこよなく愛し、棍棒もて野獣を一撃で撃ち殺す、その剛腕に頬をすり寄せては愛無したという、汝アルテミスよ、おまえこそは人の世そのものだ。
愛情と戦争、貞淑の法度と本能のみだら、いつくしみと残虐さ、
それらの矛盾と不条理を体現して憚りもしない。
狩猟の名に託した物欲と競争のすさまじさ、またその限りなさ。生殖のためには強い男をひたすら愛するその性と云い、アルテミスよ、おまえの総身もて人の世の寓意と云えるだろう。
おまえに狩られて殺された過去無数の人間たちが、
おまえの根元で怨嗟の呪いをあげようとも、
かえってそれを肥やしにして、なおいっそうの花々を咲かせ枝を茂らせる、それがおまえだ、世の中だ。

アルテミスよ、かつておまえが守護しながら滅ぼされたトロイア、またみずから殺めてしまった愛人オリオーン。彼らのために流したというおまえのその涙が、願わくは、万国万人のために流されるよう、俺は祈っているぜ…

          【狩猟と愛情の矛盾した?女神たる、アルテミス】
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