人生詩集・番外編

夜のタブロー・2

怪人「求むるは闇の中の光…苦き世の甘美なる実…あまつ乙女たるこの少女なり…我に遠ざけられし禁断の実、麗しの花…遠くな行きそ、我を忌むなかれ…かつてエルデンの園にて彼の実をば、ともに食みては追われしを…いま汝がその禁断の実となりはてて…我を厭うは何ごとぞ!…世の奢侈に溺れ、女王の蔀に寝るが本望か?…我をバリアとし、バルバロイとし、世の的とに晒しては、闇の淵に葬りさるが本望か?…おのれ、されば我、闇の淵よりかく現れ来て、汝を道連れにまた沈み行くまで…おおおおお、あああああ、乙女よ、乙女、逃すものかは!」

時が返った。

図書館前の階段を上って来た男があっけなく女子高生の前を通り過ぎて行く。女子高生も自転車に乗って家路へと着くようだ。時刻は閉館少し前の午後八時頃か。三々五々他の来館者たちも帰って行くようだ。
しかしそれならば…さきほどはいったい、何を見たのだろう?
街灯に照らされた館前の一角が小雨に煙り、そこに浮かんだ木や人のシルエットがいかにも幻想的で、偶さか現れた女子高生をそこに見た時、画像がフィクスし、時が止まったのだった。

だから…

この‘夜のタブロー’を描いたのはこの俺で、それに見入っていたのもこの俺だ。そして迫り来る怪物も俺だったのに違いない。俺は人と、現実と交われぬ男…闇に潜む、オペラ座の怪人… 

いとしきはただ、この‘夜のタブロー’なりき…
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