ブレイクアウト!
#12 アム姫と三銃士
配信騒動があった次の日の朝から、学園ではもうひと騒動が起きていた。
校門の前ではアムの姿を配信してひと儲けしようと、複数のヤンキー生徒たちが張り込んでいたのだ。
「全員配置につけ! 被写体が来たぞォ‼」
アムの目撃情報をスマホで受けた連絡係の生徒がワイヤレスイヤホンで声を上げると、集合してダベっていた生徒たちが、一瞬にして生垣や銅像の陰に身を隠した。
「ウヒヒ。一攫千金のチャンス到来だぜ!」
否が応でも期待の色が高まり、配置についた全員が悪い顔でニヤニヤする。
「被写体が、校門をくぐりましたー!」
「今だ、回せェ!」
動画を回し始めたその途端、
「おいおい、ドコのドイツが、誰の許可を得てカメラ回してんだァ?」
カメラのレンズ越しにアムを捉えていたヤンキー生徒は、ドスのきいた怒鳴り声と画面いっぱいに映り込む赤髪のユーリに動揺して、スマホを派手に地面に落とした。
「ス、3ワールドのユーリ‼」
「・・・返事がねーなァ。」
落ちてひび割れたスマホを力強く踏みつけたユーリは、血走った目をカッと見開いて怯える強面のヤンキーたちを一瞬で射抜いた。
「誰の許可取って撮影してんだって聞いてんだよ、ボケが‼」
「や、あのッ・・・シャーセンしたッ!」
威嚇された生徒は、普段は冷静沈着なユーリが、実は三人の中で1番の短腹だという噂を思いだした。
歯をガチガチに震わせたヤンキー生徒たちは、命からがらその場から撤退した。
アムが歩く両脇にはジンとケントが立ち、拡声機で威嚇しながら周囲を牽制する。
「ハイ、今日から学園の敷地内はカメラ禁止ねー。俺らを相手にする自信があるなら、どうぞご自由に!
え?ないかー。だよねー。」
ケントにいたっては、指2本を突き出して周囲にメンチを切りながら練り歩いていた。
「テメェーら、半径2メートル以内に近寄るなよ! アムに手出したら、俺ら3ワールドが相手になんぞ‼
ただし、二度とダンス界隈でマトモに息ができると思うなよ!」
そこにユーリも加わり、まるでアムを護衛する騎士のように、逆三角形の布陣で登校するという異例の光景には、配信狙いのヤンキーだけではなく、その場に居る全生徒たちが驚いた。
「ヤバ! 3ワールドが、アムと一緒に登校しているぞ!」
「アムを撮影するなって言ってる!」
「ダンフェスの敵同士じゃねーのかよ?」
そしてその場に、3ワールドの意思に反旗を翻してまでアムにスマホを向けようとする勇者は、誰ひとりとしていなかったのだった。
※
カラッとした晴天の昼休み。
アムと3ワールドの四人は、さんさんと日差しが降り注ぐ学園の屋上で一緒に昼食を楽しんでいた。
「騒ぎが収まるまで、一週間もかからなかったな。」
ケントが屋上のベンチでコーラのボトルをあおって満足げに喉を鳴らした。
「俺らがいたら、当然っしょ!」
ジンはニコニコしながらアムとシェアしたカツサンドを頬張っている。
ユーリはクラッシュアイスが半分以上入ったアイスコーヒーをストローで吸いながら陽射しに眼鏡を光らせた。
「念のために、今週末までは全員で登下校しよーぜ。」
ジンが即座に反応した。
「だなだな! アムもイイよな?」
「モチロンじゃ!」
カツサンドを夢中で頬張っていたアムが指に付いたマスタードをペロリと舐めた。
「あと、最近よく三人がうちと一緒にいるから、隣の席の白ギャルが三人のうちの一人を自分に紹介しろとウルサイのだが・・・紹介してもイイか?」
三人は同時に両手を交差させた。「ゼッタイに駄目!」
「なんかさ、久しぶりにこういう感じエモイよね。」
ジンが機嫌よく切り出した。
「登下校の時間を合わせたり昼休みにメシ食いながらワイワイするのがさ。ガキの頃の遠足みたいで、ちょーワクワクすんな!」
「ジンは寝坊するから待ち合わせに間に合ったことないじゃん。」
ユーリがツッコむと、ケントもカップ焼きそばを食べながら頷いた。
「昼休みもだいたい寝てるしな。」
「前の日からワクワクしすぎて寝れないだろ、しょーがないから夜中起きてたら寝不足で、朝は朝でぼーっとしてて、気づいたら家を出る時間なんだよな~。
でも、いつもワクワクしちゃうんだよなー!」
一生懸命言い訳を伝えるジンの首筋のホクロを眺めて、アムがクスリと微笑んだ。
(子供みたいで可愛いのじゃ。ジンが、ちぃくんだったら良いのにな!)
「アム、あーんして。」
素直に口を開けるとカツサンドが自分の口の中に飛びこんできて、アムは目を白黒させた。
「残りいっこだからアムにあげるね。」
「優しいのじゃー! やっぱり、ジンがちぃくんなら良いのにー!!」
「ブフッ‼」
ケントとユーリが口に入れていた内容物を同時に吹き出し、ジンは頬を赤く染めた。
「え、俺のこと?
心の声がダダ洩れのアムも可愛いねッ!」
もはや交際したてのカップルみたいな雰囲気を醸し出す二人から、ムスッとして目をそらすケント。
ため息を吐いたユーリは、眼鏡を外してレンズを拭き始めた。
「ジン、今年もチーム戦のエントリーしたんだろ。練習やんないの?」
「あ、するするー。今年は何しようね。」
宙を見上げたジンは、すぐにパアッと顔を輝かせた。
「そうだ! どうせなら、アムも一緒にチーム戦をやらない?」
「チーム戦とはなんじゃ?」
「個人のダンスバトル以外に、チーム戦のエキシビジョンマッチがあるんだ。
公式の番長争いとは関係ないし、全員でルーティーンを踊るのは、迫力があるし楽しいよ。」
「ルーティーン?」
「公園でバトルしたときに、ヒロトと真島兄弟がビタ揃いでヘッドスピンやってたろ。」
ケントの言葉で、チームヘッドマスターズが魅せたルーティーンを思い出したアムは、顔を輝かせた。
「うちもやりたいのじゃ!」
「じゃ、決まりね!
明日の放課後から駅前の広場に集合な!!」
3ワールドとアムが和やかに昼休憩を終えたあと、一年の教室に戻る途中のアムをユーリが呼び止めた。
「アム、ちょっと今いい? 話があるんだけど。」
「なんじゃ?」
「ここじゃアレだから、移動しようぜ。」
素直にユーリの後ろについていくアム。
その姿を、あとから階段を降りて来たケントがチラ見して、首を傾げた。
「ユーリとアム・・・二人で今からどこに行くつもりだ?」
声をかけるには遠すぎる。
(ま、俺にはカンケーないか。)
ヘッドホンを耳にかけてそのまま二年の教室があるフロアに行こうとしたケントは、突然立ち止まった。
「あ''あ''---‼」
発狂するように頭を両手でかき乱したケントは、急に踵を返して走り出した。
「ダァァー気になるッ! なんなんだよ、俺ってヤツはァァァ!!」
校門の前ではアムの姿を配信してひと儲けしようと、複数のヤンキー生徒たちが張り込んでいたのだ。
「全員配置につけ! 被写体が来たぞォ‼」
アムの目撃情報をスマホで受けた連絡係の生徒がワイヤレスイヤホンで声を上げると、集合してダベっていた生徒たちが、一瞬にして生垣や銅像の陰に身を隠した。
「ウヒヒ。一攫千金のチャンス到来だぜ!」
否が応でも期待の色が高まり、配置についた全員が悪い顔でニヤニヤする。
「被写体が、校門をくぐりましたー!」
「今だ、回せェ!」
動画を回し始めたその途端、
「おいおい、ドコのドイツが、誰の許可を得てカメラ回してんだァ?」
カメラのレンズ越しにアムを捉えていたヤンキー生徒は、ドスのきいた怒鳴り声と画面いっぱいに映り込む赤髪のユーリに動揺して、スマホを派手に地面に落とした。
「ス、3ワールドのユーリ‼」
「・・・返事がねーなァ。」
落ちてひび割れたスマホを力強く踏みつけたユーリは、血走った目をカッと見開いて怯える強面のヤンキーたちを一瞬で射抜いた。
「誰の許可取って撮影してんだって聞いてんだよ、ボケが‼」
「や、あのッ・・・シャーセンしたッ!」
威嚇された生徒は、普段は冷静沈着なユーリが、実は三人の中で1番の短腹だという噂を思いだした。
歯をガチガチに震わせたヤンキー生徒たちは、命からがらその場から撤退した。
アムが歩く両脇にはジンとケントが立ち、拡声機で威嚇しながら周囲を牽制する。
「ハイ、今日から学園の敷地内はカメラ禁止ねー。俺らを相手にする自信があるなら、どうぞご自由に!
え?ないかー。だよねー。」
ケントにいたっては、指2本を突き出して周囲にメンチを切りながら練り歩いていた。
「テメェーら、半径2メートル以内に近寄るなよ! アムに手出したら、俺ら3ワールドが相手になんぞ‼
ただし、二度とダンス界隈でマトモに息ができると思うなよ!」
そこにユーリも加わり、まるでアムを護衛する騎士のように、逆三角形の布陣で登校するという異例の光景には、配信狙いのヤンキーだけではなく、その場に居る全生徒たちが驚いた。
「ヤバ! 3ワールドが、アムと一緒に登校しているぞ!」
「アムを撮影するなって言ってる!」
「ダンフェスの敵同士じゃねーのかよ?」
そしてその場に、3ワールドの意思に反旗を翻してまでアムにスマホを向けようとする勇者は、誰ひとりとしていなかったのだった。
※
カラッとした晴天の昼休み。
アムと3ワールドの四人は、さんさんと日差しが降り注ぐ学園の屋上で一緒に昼食を楽しんでいた。
「騒ぎが収まるまで、一週間もかからなかったな。」
ケントが屋上のベンチでコーラのボトルをあおって満足げに喉を鳴らした。
「俺らがいたら、当然っしょ!」
ジンはニコニコしながらアムとシェアしたカツサンドを頬張っている。
ユーリはクラッシュアイスが半分以上入ったアイスコーヒーをストローで吸いながら陽射しに眼鏡を光らせた。
「念のために、今週末までは全員で登下校しよーぜ。」
ジンが即座に反応した。
「だなだな! アムもイイよな?」
「モチロンじゃ!」
カツサンドを夢中で頬張っていたアムが指に付いたマスタードをペロリと舐めた。
「あと、最近よく三人がうちと一緒にいるから、隣の席の白ギャルが三人のうちの一人を自分に紹介しろとウルサイのだが・・・紹介してもイイか?」
三人は同時に両手を交差させた。「ゼッタイに駄目!」
「なんかさ、久しぶりにこういう感じエモイよね。」
ジンが機嫌よく切り出した。
「登下校の時間を合わせたり昼休みにメシ食いながらワイワイするのがさ。ガキの頃の遠足みたいで、ちょーワクワクすんな!」
「ジンは寝坊するから待ち合わせに間に合ったことないじゃん。」
ユーリがツッコむと、ケントもカップ焼きそばを食べながら頷いた。
「昼休みもだいたい寝てるしな。」
「前の日からワクワクしすぎて寝れないだろ、しょーがないから夜中起きてたら寝不足で、朝は朝でぼーっとしてて、気づいたら家を出る時間なんだよな~。
でも、いつもワクワクしちゃうんだよなー!」
一生懸命言い訳を伝えるジンの首筋のホクロを眺めて、アムがクスリと微笑んだ。
(子供みたいで可愛いのじゃ。ジンが、ちぃくんだったら良いのにな!)
「アム、あーんして。」
素直に口を開けるとカツサンドが自分の口の中に飛びこんできて、アムは目を白黒させた。
「残りいっこだからアムにあげるね。」
「優しいのじゃー! やっぱり、ジンがちぃくんなら良いのにー!!」
「ブフッ‼」
ケントとユーリが口に入れていた内容物を同時に吹き出し、ジンは頬を赤く染めた。
「え、俺のこと?
心の声がダダ洩れのアムも可愛いねッ!」
もはや交際したてのカップルみたいな雰囲気を醸し出す二人から、ムスッとして目をそらすケント。
ため息を吐いたユーリは、眼鏡を外してレンズを拭き始めた。
「ジン、今年もチーム戦のエントリーしたんだろ。練習やんないの?」
「あ、するするー。今年は何しようね。」
宙を見上げたジンは、すぐにパアッと顔を輝かせた。
「そうだ! どうせなら、アムも一緒にチーム戦をやらない?」
「チーム戦とはなんじゃ?」
「個人のダンスバトル以外に、チーム戦のエキシビジョンマッチがあるんだ。
公式の番長争いとは関係ないし、全員でルーティーンを踊るのは、迫力があるし楽しいよ。」
「ルーティーン?」
「公園でバトルしたときに、ヒロトと真島兄弟がビタ揃いでヘッドスピンやってたろ。」
ケントの言葉で、チームヘッドマスターズが魅せたルーティーンを思い出したアムは、顔を輝かせた。
「うちもやりたいのじゃ!」
「じゃ、決まりね!
明日の放課後から駅前の広場に集合な!!」
3ワールドとアムが和やかに昼休憩を終えたあと、一年の教室に戻る途中のアムをユーリが呼び止めた。
「アム、ちょっと今いい? 話があるんだけど。」
「なんじゃ?」
「ここじゃアレだから、移動しようぜ。」
素直にユーリの後ろについていくアム。
その姿を、あとから階段を降りて来たケントがチラ見して、首を傾げた。
「ユーリとアム・・・二人で今からどこに行くつもりだ?」
声をかけるには遠すぎる。
(ま、俺にはカンケーないか。)
ヘッドホンを耳にかけてそのまま二年の教室があるフロアに行こうとしたケントは、突然立ち止まった。
「あ''あ''---‼」
発狂するように頭を両手でかき乱したケントは、急に踵を返して走り出した。
「ダァァー気になるッ! なんなんだよ、俺ってヤツはァァァ!!」