ブレイクアウト!
#9 俺は硬派だ!
「いいんだぜ、ここでバトっても。」
ヒョウ柄頭のヒロトが、三白眼に凄みを効かせてケントを見た。
カラスの鳴き声が響く夕焼けの公園には、急に不穏な空気が漂う。
「知るか。」
無視してアムを連れて歩き出そうとしたケントの行く手を、ヒロトの仲間・真島兄弟のコウとフクが前後を固めて塞いだ。
「おやおや、どこ行く気?」
「世界ランク3位のくせに、ヒロトさんにヒヨッちゃった?」
そして、二人は背中に隠し持っていたバットを肩の上に振りかざして、ベロッと舌を出した。
「バトルが終わるまでぇー、帰れまぁーーーセンッ! 」
ケントは「ギャハハ」と下品に笑うヒロトたちをにらんだ。
「偶然を装ってるけど、下準備は完璧じゃん。お前・・・やってんな!」
「それだけお前に対する恨みが強いんだよ!」
ケントが指二本で自分の目を指さしてから、その指をビシッとヒロトに向けた。
「バトル上等だぜ! いつでもかかってきな‼ ・・・ってあれ、アム!?」
「ねぇねぇ、ヒロトはダンスが上手いのか?」
いつの間にかヒロトのすぐ隣に立っていたアムが、フリーズしているヒロトのニオイをクンクンと嗅いで回っている。
ケントはアムを羽交い絞めにして引き戻した。
「だーかーら、ダルいって! 人との距離感を考えろって! どんだけ学習能力ゼロなんだよ。お前の頭は空洞なのか!?」
「ガーン・・・そうじゃった!! うちはニンゲンじゃ。ピーマンではないッ!」
またもやアムとケントの言い争いが始まり、フリーズしていたヒロトが我に返った。
「ハッ、何が起こった?」
「ケントさん、大丈夫ですか?」
すぐに真島兄弟が心配して駆け寄る。
「一瞬だが・・・記憶が飛んだようだ。」
ヒロトが白い顔で俯くと、真島兄弟が口々にアムを責めた。
「いいか、女は近づくな! ヒロトさんはダンスが出来るがモテなすぎて、女に耐性がないんだからな‼」
「そうだそうだ! ダンスとヤンキーに能力値を振り切りすぎたがために、ファッションセンスは鬼ダサなんだからな!」
ヒロトは無言で背後から真島兄弟が持つバットを瞬時に取り上げると、片手ずつ二人の頭をわしづかみにした。
それから二人の頭を真ん中に引き寄せてゴチンと力強くぶつからせた。
「ふんぬ!」
「シャーセンしたぁ・・・!
真島兄弟は涙目でピヨった。
仲間二人を同時にぶちのめしたヒロトは、緊張の色を濃くしたケントにモジモジと呟いた。
「あのさぁ、ケントくん。その女がね、俺に何と尋ねたかを聞きたいんだけどぉ。」
「は? なぜ俺が?? 目の前にいるんだから自分で聞けばいんじゃね?」
「俺は硬派だ! 」
「だから何だ!」
「俺は昔から女と話ができない病に罹っている。だから、ケントから聞いてくれよ‼」
「そろいも揃ってめんどくせぇヤツらだな。」
ケントは肩の力を抜いて吐息を吐いた。
「・・・だってよ、アム。答えてやれよ。」
ケントが背後から羽交い締めにしていたアムの腕をスルッと離すと、動かないアムに問いかけた。
「・・・何でアムまで緊張してるんだよ?」
「なな、何でもない!」
アムは、ドキマギする心臓の辺りを押さえた。
(な、なんでじゃ? ホクロ以外にちぃくんの特徴がないケント相手に、触れられてもドキドキするはずがないのに!)
アムは自分の動揺を気取られないよう、慌ててヒロトに返事をした。
「うちはダンスが上手いのかと聞いたぞ!」
「そうか、ならば答えよう。ダンスといえば、俺か俺以外にはいない! と、女に伝えろ!」
「ならば言う! ヒロトの首筋のホクロをかけて、うちとダンスバトルじゃーっ!」
アムに宣戦布告されたヒロトはニヤリとした。
「ホクロ? 何のことかよく分からんが、売られたケンカは受けて立つ! と、その女に伝えてくれ‼」
通訳する気のないケントは、すぐにヒロトに抗議した。
「俺とのバトルは? 恨みはどーした?」
「レディファーストだ。お前はジャッジしろ。」
「なんでそうなるんだよ‼」
※
ヒロトが首と手首を軽く鳴らしていると、真島兄弟がスマホのカメラをヒロトに向けている。
「なにしてんだ?」
「ライブ配信ッス。このバトルを通じて、ヒロトさんの凄さを世界中に広めてやりますよ!」
「おう。気が利くじゃねーか。
今、何万人の視聴者が見ているんだ?」
「3人です!」
「おう・・・で、先行は俺でいいんだな?」
アムとケントはコクコク頷いて手のひらを上に向けて「お先にどうぞ」のジェスチャーをする。
コピーダンスしかできないアムは、先行では踊れないからだ。
真島兄弟がスマホで音楽を鳴らしたのがトリガーになった。
「ヒロトさん、お得意の曲です!」
R&Bとヒップホップを融合させた独特のサウンドのサビだけをループさせたキャッチ―なオリジナル曲に、ヒロトがノリノリで大きくステップを踏む。「やってやんよ!」
そして、おもむろに手に持っていた派手な配色のヘルメットを被った。
「あれは、工事現場でよく見る帽子? ダンスバトルじゃなかったのか??」
アムが丸い目をキョトンとさせた。
ヒロトが腕組みしながら、ニンマリと笑う。
「こっからが面白いから、瞬き禁止な。」
そして頭を下にしてコンクリートの地面に三点倒立してフリーズすると、大きな声で叫んだ。「お前ら見とけ! これが俺の生きざまだーーー‼」
ヒロトが腕と足の力を使って腰をひねりあげ、勢いをつけて頭を軸にその場で回転する。
最初はゆっくりと、徐々にスピードに乗って回ると、音楽に合わせて手を広げたり、足を片方ずつ動かしたりして強弱をつけているのが分かる。
「こ、これが・・・ダンス・・・なのか?」
「ヘッドスピン。ブレイクダンスの技の一つなんだけど、ヒロトはこの技のスペシャリストなんだ。バリエーションはたくさんあるが、ヒロトは身体が柔軟だから多彩な独自の変形バージョンを回れる。
ヘッドスピンに関しては、ヒロト以上のヤツは見たことねぇ。」
「ふぇぇ。」
アムは初めて見るヘッドスピンに集中しすぎて、目が回って吐きそうだ。
一分以上回り続けたヒロトに続いて、ヒロトの仲間が両脇でヘッドスピンにルーティーンで参加する。三人で一糸乱れぬ回転をするムーブは圧巻で、芸術的なビタ揃いはたゆまぬ汗と努力の結晶だ。
フィニッシュには全員で逆さまに同じフリーズをすると、ヒロトとその仲間がその場で飛びあがった。
「キマリすぎ!」
「ですです!」
「サイコーです、ヒロトさん!」
三人は握手やハイタッチ・肘タッチのシークレットハンドシェイクで大盛り上がりし、揃って舌を出して後攻のアムを煽る。
「どうだぁッ⁉ と、女に伝えろ!」
「ヘッドスピンすごかった・・・! うちもやってみる‼」
「俺さまにヘッドスピンで対抗する気なのか? 恥かくぞと伝えてくれ。」
ヒロトがコンクリートの上に大の字で寝ながら、アムを笑い飛ばした。
「確かに。このままじゃ、色気のない毛糸のパンツを不特定多数に配信することになるな。アム、踊る前に体操服の半ズボンを履いておけよ。あと、頭にタオルでも巻いとけ。」
「そーーーゆーーーことじゃねーーーよ‼」
こめかみに青筋を立てたヒロトがケントに激しくツッコミを入れるのと、頭にタオルを巻いて半ズボンを履いたアムが、ヘソを見せて身軽に三点倒立をするのは同時だった。
ヒロトがゴクリと喉を鳴らす。「ホントにやる気か?」
「じゃ、うちの番。いっくよー!」
地に頭をつけて身体を捻ると、コマのように回転するアムにヒロトたちは目をひん剥いた。
「イイッ⁉」
ヒロトが見せたムーブそのままに多彩なヘッドスピンを回るアム。
驚愕のトレーススキルを前に、ヒロトとその仲間はあごが外れるくらい口を開けて、呆然と立ち尽くすしかなかった。
※
すっかり暗くなった公園からの帰り道。
ヒロトと真島兄弟はすっかり意気消沈して肩を落とし、コンビニの前で湯気が立ちのぼるアツアツのカップ麺をすすっている。
「悪かったな、お前たち。」
ヒロトが珍しく真島兄弟に頭を下げた。
「ケントに再挑戦して下剋上するはずが、思わぬ伏兵に返り討ちされるとは・・・俺、今日の星座占い12位だったからな。」
「俺、1位でしたよ。」
コウがうつむいていた顔を上げると、腰まで顔を下げていたヒロトが大きなため息を吐いた。
「占いなんてもう信用できん。神も仏もないもんだな。」
フクが口に手を当てて急にふき出した。
「プッ。ヒロトさん、それオヤジギャグ?」
「あ、俺が坊主だから髪も仏もない。ついでに首にはホクロもなかった・・・って、ちゃうわ!」
ひとしきり笑い合ったあとは、またも悔しさを思い出して、賢者になる静寂が訪れる。
そんな中、コウが改めてスマホで配信したバトル動画を再生して観ていた。
「てか、あのアムって女、何者なんでしょーね。ヘッドスピンうま過ぎ問題。」
「ヒロトさーん、やっぱ俺らのチームもヘッドスピン以外の技も練習しましょーよ!」
フクが心からの想いをヒロトに伝えたが、ヒロトは断固拒否した。
「俺は昔から、ヘッドスピンしかできない病に罹ってるんだ!」
「いよッ、硬派!」
少し落ち着いた三人の耳に、スマホの通知音が突然鳴り響いた。
「通知音うるせーな。あれ?さっきの配信の視聴者数増えてる・・・。」
「へぇ。何人になったんだ?」
「ヒロトさん、いちまん・・・です⁉」
「は?」
「1万人‼」
「エエッ⁉」
星明かりに照らされた三人は、アゴが外れそうなくらい驚いたお互いの顔を見比べた。
ヒョウ柄頭のヒロトが、三白眼に凄みを効かせてケントを見た。
カラスの鳴き声が響く夕焼けの公園には、急に不穏な空気が漂う。
「知るか。」
無視してアムを連れて歩き出そうとしたケントの行く手を、ヒロトの仲間・真島兄弟のコウとフクが前後を固めて塞いだ。
「おやおや、どこ行く気?」
「世界ランク3位のくせに、ヒロトさんにヒヨッちゃった?」
そして、二人は背中に隠し持っていたバットを肩の上に振りかざして、ベロッと舌を出した。
「バトルが終わるまでぇー、帰れまぁーーーセンッ! 」
ケントは「ギャハハ」と下品に笑うヒロトたちをにらんだ。
「偶然を装ってるけど、下準備は完璧じゃん。お前・・・やってんな!」
「それだけお前に対する恨みが強いんだよ!」
ケントが指二本で自分の目を指さしてから、その指をビシッとヒロトに向けた。
「バトル上等だぜ! いつでもかかってきな‼ ・・・ってあれ、アム!?」
「ねぇねぇ、ヒロトはダンスが上手いのか?」
いつの間にかヒロトのすぐ隣に立っていたアムが、フリーズしているヒロトのニオイをクンクンと嗅いで回っている。
ケントはアムを羽交い絞めにして引き戻した。
「だーかーら、ダルいって! 人との距離感を考えろって! どんだけ学習能力ゼロなんだよ。お前の頭は空洞なのか!?」
「ガーン・・・そうじゃった!! うちはニンゲンじゃ。ピーマンではないッ!」
またもやアムとケントの言い争いが始まり、フリーズしていたヒロトが我に返った。
「ハッ、何が起こった?」
「ケントさん、大丈夫ですか?」
すぐに真島兄弟が心配して駆け寄る。
「一瞬だが・・・記憶が飛んだようだ。」
ヒロトが白い顔で俯くと、真島兄弟が口々にアムを責めた。
「いいか、女は近づくな! ヒロトさんはダンスが出来るがモテなすぎて、女に耐性がないんだからな‼」
「そうだそうだ! ダンスとヤンキーに能力値を振り切りすぎたがために、ファッションセンスは鬼ダサなんだからな!」
ヒロトは無言で背後から真島兄弟が持つバットを瞬時に取り上げると、片手ずつ二人の頭をわしづかみにした。
それから二人の頭を真ん中に引き寄せてゴチンと力強くぶつからせた。
「ふんぬ!」
「シャーセンしたぁ・・・!
真島兄弟は涙目でピヨった。
仲間二人を同時にぶちのめしたヒロトは、緊張の色を濃くしたケントにモジモジと呟いた。
「あのさぁ、ケントくん。その女がね、俺に何と尋ねたかを聞きたいんだけどぉ。」
「は? なぜ俺が?? 目の前にいるんだから自分で聞けばいんじゃね?」
「俺は硬派だ! 」
「だから何だ!」
「俺は昔から女と話ができない病に罹っている。だから、ケントから聞いてくれよ‼」
「そろいも揃ってめんどくせぇヤツらだな。」
ケントは肩の力を抜いて吐息を吐いた。
「・・・だってよ、アム。答えてやれよ。」
ケントが背後から羽交い締めにしていたアムの腕をスルッと離すと、動かないアムに問いかけた。
「・・・何でアムまで緊張してるんだよ?」
「なな、何でもない!」
アムは、ドキマギする心臓の辺りを押さえた。
(な、なんでじゃ? ホクロ以外にちぃくんの特徴がないケント相手に、触れられてもドキドキするはずがないのに!)
アムは自分の動揺を気取られないよう、慌ててヒロトに返事をした。
「うちはダンスが上手いのかと聞いたぞ!」
「そうか、ならば答えよう。ダンスといえば、俺か俺以外にはいない! と、女に伝えろ!」
「ならば言う! ヒロトの首筋のホクロをかけて、うちとダンスバトルじゃーっ!」
アムに宣戦布告されたヒロトはニヤリとした。
「ホクロ? 何のことかよく分からんが、売られたケンカは受けて立つ! と、その女に伝えてくれ‼」
通訳する気のないケントは、すぐにヒロトに抗議した。
「俺とのバトルは? 恨みはどーした?」
「レディファーストだ。お前はジャッジしろ。」
「なんでそうなるんだよ‼」
※
ヒロトが首と手首を軽く鳴らしていると、真島兄弟がスマホのカメラをヒロトに向けている。
「なにしてんだ?」
「ライブ配信ッス。このバトルを通じて、ヒロトさんの凄さを世界中に広めてやりますよ!」
「おう。気が利くじゃねーか。
今、何万人の視聴者が見ているんだ?」
「3人です!」
「おう・・・で、先行は俺でいいんだな?」
アムとケントはコクコク頷いて手のひらを上に向けて「お先にどうぞ」のジェスチャーをする。
コピーダンスしかできないアムは、先行では踊れないからだ。
真島兄弟がスマホで音楽を鳴らしたのがトリガーになった。
「ヒロトさん、お得意の曲です!」
R&Bとヒップホップを融合させた独特のサウンドのサビだけをループさせたキャッチ―なオリジナル曲に、ヒロトがノリノリで大きくステップを踏む。「やってやんよ!」
そして、おもむろに手に持っていた派手な配色のヘルメットを被った。
「あれは、工事現場でよく見る帽子? ダンスバトルじゃなかったのか??」
アムが丸い目をキョトンとさせた。
ヒロトが腕組みしながら、ニンマリと笑う。
「こっからが面白いから、瞬き禁止な。」
そして頭を下にしてコンクリートの地面に三点倒立してフリーズすると、大きな声で叫んだ。「お前ら見とけ! これが俺の生きざまだーーー‼」
ヒロトが腕と足の力を使って腰をひねりあげ、勢いをつけて頭を軸にその場で回転する。
最初はゆっくりと、徐々にスピードに乗って回ると、音楽に合わせて手を広げたり、足を片方ずつ動かしたりして強弱をつけているのが分かる。
「こ、これが・・・ダンス・・・なのか?」
「ヘッドスピン。ブレイクダンスの技の一つなんだけど、ヒロトはこの技のスペシャリストなんだ。バリエーションはたくさんあるが、ヒロトは身体が柔軟だから多彩な独自の変形バージョンを回れる。
ヘッドスピンに関しては、ヒロト以上のヤツは見たことねぇ。」
「ふぇぇ。」
アムは初めて見るヘッドスピンに集中しすぎて、目が回って吐きそうだ。
一分以上回り続けたヒロトに続いて、ヒロトの仲間が両脇でヘッドスピンにルーティーンで参加する。三人で一糸乱れぬ回転をするムーブは圧巻で、芸術的なビタ揃いはたゆまぬ汗と努力の結晶だ。
フィニッシュには全員で逆さまに同じフリーズをすると、ヒロトとその仲間がその場で飛びあがった。
「キマリすぎ!」
「ですです!」
「サイコーです、ヒロトさん!」
三人は握手やハイタッチ・肘タッチのシークレットハンドシェイクで大盛り上がりし、揃って舌を出して後攻のアムを煽る。
「どうだぁッ⁉ と、女に伝えろ!」
「ヘッドスピンすごかった・・・! うちもやってみる‼」
「俺さまにヘッドスピンで対抗する気なのか? 恥かくぞと伝えてくれ。」
ヒロトがコンクリートの上に大の字で寝ながら、アムを笑い飛ばした。
「確かに。このままじゃ、色気のない毛糸のパンツを不特定多数に配信することになるな。アム、踊る前に体操服の半ズボンを履いておけよ。あと、頭にタオルでも巻いとけ。」
「そーーーゆーーーことじゃねーーーよ‼」
こめかみに青筋を立てたヒロトがケントに激しくツッコミを入れるのと、頭にタオルを巻いて半ズボンを履いたアムが、ヘソを見せて身軽に三点倒立をするのは同時だった。
ヒロトがゴクリと喉を鳴らす。「ホントにやる気か?」
「じゃ、うちの番。いっくよー!」
地に頭をつけて身体を捻ると、コマのように回転するアムにヒロトたちは目をひん剥いた。
「イイッ⁉」
ヒロトが見せたムーブそのままに多彩なヘッドスピンを回るアム。
驚愕のトレーススキルを前に、ヒロトとその仲間はあごが外れるくらい口を開けて、呆然と立ち尽くすしかなかった。
※
すっかり暗くなった公園からの帰り道。
ヒロトと真島兄弟はすっかり意気消沈して肩を落とし、コンビニの前で湯気が立ちのぼるアツアツのカップ麺をすすっている。
「悪かったな、お前たち。」
ヒロトが珍しく真島兄弟に頭を下げた。
「ケントに再挑戦して下剋上するはずが、思わぬ伏兵に返り討ちされるとは・・・俺、今日の星座占い12位だったからな。」
「俺、1位でしたよ。」
コウがうつむいていた顔を上げると、腰まで顔を下げていたヒロトが大きなため息を吐いた。
「占いなんてもう信用できん。神も仏もないもんだな。」
フクが口に手を当てて急にふき出した。
「プッ。ヒロトさん、それオヤジギャグ?」
「あ、俺が坊主だから髪も仏もない。ついでに首にはホクロもなかった・・・って、ちゃうわ!」
ひとしきり笑い合ったあとは、またも悔しさを思い出して、賢者になる静寂が訪れる。
そんな中、コウが改めてスマホで配信したバトル動画を再生して観ていた。
「てか、あのアムって女、何者なんでしょーね。ヘッドスピンうま過ぎ問題。」
「ヒロトさーん、やっぱ俺らのチームもヘッドスピン以外の技も練習しましょーよ!」
フクが心からの想いをヒロトに伝えたが、ヒロトは断固拒否した。
「俺は昔から、ヘッドスピンしかできない病に罹ってるんだ!」
「いよッ、硬派!」
少し落ち着いた三人の耳に、スマホの通知音が突然鳴り響いた。
「通知音うるせーな。あれ?さっきの配信の視聴者数増えてる・・・。」
「へぇ。何人になったんだ?」
「ヒロトさん、いちまん・・・です⁉」
「は?」
「1万人‼」
「エエッ⁉」
星明かりに照らされた三人は、アゴが外れそうなくらい驚いたお互いの顔を見比べた。