DEAR 1st SEASON




「…どうして…?」



その“どうして”、には沢山の意味が込められている。


どうしてここに?


どうして来てくれたの?




唖然とするあたしに、朝岡さんは申し訳なさそうに笑った。




「チヒロに彩の家の場所聞いたんや。


──…良かったら時間ある?」




「……え、うん…」




「外、行けへん?
車で来たから─…。」




朝岡さんは玄関のドアを開け、シルバーに光る車の鍵を揺らした。




「…うん。」




この時のあたしは、不思議と朝岡さんに対して不信感も警戒心もなく。




二つ返事をして、
慌てるように靴を足に通し朝岡さんと同じく玄関を出た。




──…辺りはすっかり真っ暗で、夏独特の虫の鳴き声が聞こえる。




「彩、こっちな。」




朝岡さんの声と同時に、ロックを外す音が聞こえた。


家に横付けしてあるのは、シルバーのエスティマ。




「どうぞ。」




朝岡さんがわざわざ助手席側のドアまで回って開けてくれて。




「…ありがとう。」




そう答え、助手席へと乗り込んだ。


中はすごく落ち着く雰囲気で、いつか嗅いだシトラスのような香りがする。




──…男の人の車に乗るなんて初めてだ。




そりゃああたしの年からしたら、周りに車の免許を持ってる人なんていないから当然なんだけど──…。



何でかな。


あの時はすごく朝岡さんが大人の男性に感じて仕方なかったの。

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