DEAR 1st SEASON


「えぇっと…
とりあえず移動してえぇかな?」




「あ、うん…。」




朝岡さんがエンジンをかけて、ハンドルに手を掛けた。


車はゆっくりと動き出し、どこかに向かう。




……チラリ………。




思わず朝岡さんの姿を横目で確認してしまう。



夜の暗さから、いつも以上に朝岡さんが大人に見えて仕方ない。




…運転してる姿かっこいいな…。




無意識にそう思って、慌てて頭で否定した。




何考えてるんだろ。

ダメだよダメ。




あたしが好きなのはぶんちゃんなんだから──…。




好きなんかじゃない。



普段見ない朝岡さんの運転姿だから、動揺してるだけだよ。



そう自分に言い聞かせ、否定するのに必死だった。




この時、少しでも朝岡さんの事考える余裕があったら──…。




ねぇ朝岡さん。




過ぎた過去の自分に、

どうしても“もしも…”って言葉がこびり付いて離れない。




あの頃のあたしには、朝岡さんが大人過ぎたのかな。




余裕なんてなかったの。



あたしは切り替えも未だに下手だし。



“こうだ”って決めたら、それを曲げない頑固さもあったし。



頭が堅いから、
色んな方法も思い付かないし。




だからかな……。




朝岡さんの気持ちさえも、この時は全く読めなかったんだ。
< 154 / 370 >

この作品をシェア

pagetop