DEAR 1st SEASON



春独特の柔らかい心地よい風が頬に当たる。


もう空は薄暗く、そのせいか徐々に緊張が体を蝕む。




───…はぁっ…。



溜め息さえ、震えている自分がバカみたい…。





「──彩っ!!」




エスティマの窓から、ひょっこりと朝岡さんが顔を出した。



────ドキッ…!!!




夜なのに、久しぶりに見る朝岡さんの笑顔が眩しいのは気のせいなんだろうか。





「朝岡さん─…」



「むっちゃ久しぶり♪

突っ立ってんと早よ乗り♪」





助手席側に手を伸ばし、
わざわざドアを開けてくれる朝岡さん。




「……お邪魔します…」




おずおずと助手席に座るあたしに、懐かしい匂いが鼻をかすめた。





「……元気やった?」




優しくポンポンと頭を撫でる朝岡さんから、その懐かしい香り──…




シトラスの匂いがする。




どうしてだろうね…?



この香りを嗅ぐと、

すごく落ち着くなんて…。





「……うん……」



「……良かった。」







───何故か、


ここに笑顔で座っていたチカさんを思い出した。




チクン───…。



過去のトゲがまた一つ増えて……



奪ってしまった朝岡さんの笑顔が、やけに心に染みた。

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