DEAR 1st SEASON




その後、真っ暗な家路をどう歩いたのか全く記憶がない。




「──…彩、どうしたのその顔……。」



家のドアを閉め、お母さんがギョッとした顔で声をかけた時、やっと気付く。



……家に帰って来れたんだ……。



「彩?
何か事故にでも遭ったの?」


お母さんを見た瞬間に涙が溢れそうになる。


いつでも優しい、明るいお母さん。

だからこそ、こんな姿になった理由を話したくなかった。



悲しませたくなんかなかったから。



「派手に転んだだけー。
超ドジだよねー?」



あははと乾いた笑いを上げながら、足早に自分の部屋へと急ぐ。




何て下手な芝居──。

これ以上お母さんの目を見ると、きっと涙腺は崩壊する。




──…ごめんね


部屋に入り、電気も点けず。


ベッドに潜り、震えと痛みが収まるのを待った。



………夢だと、実感したかった。
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