DEAR 1st SEASON
心臓がさっきから、やたらと忙しそうだ。




電話に出た瞬間のヒンヤリと冷たくなった感覚。



声を聞いただけで泣きそうになるくらいに、熱く切なくなったり。



……かと思えば、
他の女の人の声を聞いた今はこう。




心臓なんて動いちゃいない。




…けれど口は勝手に動く。




「………い、今…

どこにいるんですか?」



【え?

…あぁ、海だよ。】




電話口の向こうから悪びれもなく優しい声が聞こえる。





………“海”。



──ねぇ、

一体誰と……?




そう聞きたい。

でも聞けない。




聞いたら、それこそ最後の壁は崩れ去るだろう。




頭の中で、あの日高山さんと女の人が中庭を歩いていた記憶が生々しくリンクしていく。



……ほんとにあたしってバカ……。





海になんて一人で行く筈なんかない。




誰よりも高山さんの近くにいるのは………



近くにいていいのは─…





───…あたしでは……


ない…………。
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