ありふれたわたしは見る花を探す
「ねぇ、ねぇってば。聞いてんの?今月のOcean見よ、って言ったのに!今週一回も遊べてないじゃん。」
「はー、うざ、お前彼女かよ。うける」
「洸陽が写ってるんだしさぁ、どうせなら一緒に見たくない?」
「だから彼女かって」
わたしは洸陽のことそんな目で見ないってわかってる癖にそんなこと言う。
冗談のやりとりだとわかってるからか、洸陽も口元はにやついてる。
もっと笑わせてみたくなって、ちよっと意地悪をする。
「はいはい、、、今月号は独りで見るけど、かっこいいところ切り取ってアルバム作ってリビングに飾っとこうかなぁ。それでお母さんにも見せようかな、あのヌードなところ」
「お前までそういうこと言うの、まじやめろ」
笑わなかった。体験済みだったか。
「ええ、やられたことあんの?まじでうけるんだけど」
「なんでうけてんだよ」
「いや、芸能人って大変だな、と思ってさ、同情。うん」
「お前、、医者にだけはなるなよ、、」
「あー、それは、勿論。ご心配に及ばすとも、なれませんので」
洸陽のワードチョイスはいつも面白くて、いつもIQが下がってる気がする。悲しきかな、彼にはいつまで経っても成長しない奴だと思われてそうだ。
「、、、あ、おれ、そろそろ行くわ。んじゃな」
「んーー」
と、帰り際、教室から出る時
「は?あいつ、髪の毛汚していったんだけど。きしょいわー、もてないよ、もてるけどな!」
「もてないわけ、ないわ」
静かに言ったのは、1人こんながやがやした教室の中で読書していた亜雄ちゃんだ。
「うん、本当なんでかねぇ」
どうして、普段からまわりを見て落ち着いた行動ができる森沢くんよりも、掃除も適当にする、教室に年中置いてある滅多に使わない加湿器よりもでかい癖に役に立たない、ちゃらちゃらした奴がもてるのか。
「今絶対重いこと考えてたでしょ。憧れるのもいいけど、ほどほどにね。帰りながらいくらでも話聞くよ」

「ふへへ、まぁね、、、話聞いてくれる亜雄
ちゃん、やさしー」
肩をすくめる様子がなんとも可愛らしい。
セミロングの艶々の黒髪が、とても似合ってる。

「じゃ、帰ろっかー。あ、今日ミスカフェ寄る?それとも本屋さん行く、?」

「んー、今日は㮈咲んち寄りたいわ。借りてた本返したいし」
「おっけおっけ、いいねー、行こ!」
そうかそうか、彼女に本を貸してたとは。
一体いつのなのか、どんなのかも分からないわたしの想像力にがっかりしてしまう。
でも、いつも通り亜雄ちゃんと帰れるんだ。良かった。
1人は寂しいからね。わたしみたいなタイプには。


私の最寄駅に着いたことを実感すると、降りて家に向かう。
少しだけ、緊張する。

駅から降りると、もうすぐクリスマスということもあってか、ジングルベルっぽい音楽があちこちで聞こえる。

亜雄ちゃんにクリスマスは、どうやって過ごすのか聞こうと思ったら、洸陽の特大ポスターが掲示されているのを見つけた。
「おわ!すげぇ!ちょっと見てきていい?ちょっとだけ!」
「いいわよ。」
人ごみから抜け出し、他の人が映らないよう両手を伸ばし写真を撮る。
洸陽の顔をまじまじと見る機会なんてなかったけど、この、ハンドクリームをこちらに渡す眼差しは甘く、優しげで、、、輪郭も、全てが、綺麗だ。
は、と我に帰った。なんだかわたしに合わないことを考えた気がする。
一枚じゃ足りない、と思ったけど、待たせてるのを忘れてはいけないし、と亜雄ちゃんのもとへ向かう。

「うわ!」
「好きなら撮ってあげようか、ツーショットとか」
いつの間にか、ものすごい近距離にいた。
わあ肌綺麗。じゃなくて。
「ううん!大丈夫だよ!多分これから毎朝見るだろうし」
「、、、そう。恥ずかしいとか?幼馴染のめちゃくちゃでかいポスターと写真撮るのが」
めずらしく煽ってくるなぁ
「んなわけあるか、あほ」
「、、、洸陽くんには、貴女以外想像できないの、、、とでも言って欲しい?」
「い、、、ってほしくないよ、、」
「、、、ごめん。」
「許す」
わたしの返事が詰まってしまったのは、洸陽ではなく、亜雄ちゃんの深い眼差しに、びっくりしたからだろう。


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