いい夫婦の日
ミツキは、アキヒコに話しかけた。

 しかし、アキヒコは、ミツキが、自分に話しかけているのだが、まだ、緊張をしていて、どうアクションを取れば良いのか分からない。

 2024年11月22日である。

 そして、世間では、岡田将生と憧れの高畑充希が、結婚とか何とか言っているが、アキヒコは、心が身体についていなかった。

 色んなことを、頭で考えていた。

 もう、何年と女性と話をしていない。

 いつも、出版社の仕事で一生懸命で、雑誌が売れず悩んでいる。

 そして、もう紙媒体なんて時代遅れで、スマホのアプリで、コラムを読む時代になっている。

 電車の車内からは、紙媒体の広告なんて消え、そして、LEDの広告になっている。

 仕事のことしか頭がないアキヒコだった。

 ミツキは、こう切り出した時、アキヒコは、はっとした。

「フジサカさん」

「はい」

「疲れている?」

「まあね」

 と言った。

 ミツキは、アキヒコのプライベートに入ってきた。

 ミツキは、アキヒコを心配していると、アキヒコは、分かった。

「最近、疲れていて」

「そうなんですか?」

「うん」

 アキヒコは、出版社の仕事は、かなり残業があって、最近でも、「しごおわ」が、6時になったためしはなかった。

 しごおわって、仕事終わりの時間だが、そうならない。

 胃潰瘍で辞めた人もいっぱいいる、うちの会社、と思った。

 アキヒコは、ミツキが、少し心配そうな目で見やっったことを悟った。

 ライターをしながら、編集者をしている。

 だが、他のライターに「締め切りは、いついつまで」と言っても、よく、締め切りに間に合わないことは多い。

 メールアドレスやLINE交換で、知り合ったライターに、急に原稿を依頼しているが、そもそも、アキヒコは、顔だけは、二宮和也に似ていても、白髪が少し目立ち始め、時々、血液検査で、中性脂肪やコレステロール値が高くなっている。

 京急品川駅から横浜駅まで帰って、ハイツに帰ると、一人になっている。

 ふと、今では人気がなくなったテレビを観ても、のろけているカップルを見ると「ばかやろう」と思いながら、「こんな風に、彼女と遊んでいない」アキヒコ自身に気が付き、寂しく思う。

 職場では、やはり、みんなと仲良くはなく、どうしても馬の合わない同僚もいる。

 今日は、アキヒコは、ミツキに、仕事の段取りを教えている。

 まだ、ミツキは、20代で、教えたら呑み込みが良いと思う。

 そして、気が付いたら、12時になっていた。

「フジムラ君」

「何でしょうか?」

 断られると思ったが、言ってみた。

「一緒に、食事へ行かない?」

 と言った。

 行くとしたら、職場の近所にあるとんかつ屋だ。

「とんかつ食べに行かない?そこ、安くて美味しいんだ」

 とアキヒコは、言ったら

「行きたい!」

 とミツキは、言った。

 品川駅の裏にある会社だが、東海道新幹線と上野東京ラインと横須賀線が、走っている。

 空は、晴れているが、空気は冷たい。

 外は、アキヒコとミツキのように、勤め人が、多く行きかっていた。

 ミツキは、黙ってついてきていた。

 スマホを持ちながら。

 そして、アキヒコは、いつも入っているとんかつ屋だから、常連客だ。

 「とんかつ屋幸福」

 へ向かった。

 そして、幸福へ入ったら

「いらっしゃい」

 と、年配の男性マスターと、女性の女将さんが、言った。

 その時だった。

「アキヒコ君、いらっしゃい、いつもありがとう」

 と女将さんが、言った。

 その時

「アキヒコ君、横の女の人」

「はい」

「恋人?」

 と言った。

 まるで、映画のワンシーンのようだ、とアキヒコは、思った。以前、参考までに読んだ『ヲタクに恋は難しい』のヒロタカとナルミと同じだと思った。

 ミツキは、顔が笑顔になっていた。

「大将」

「はい」

「この人、今日入ったばかりの後輩です」

 と言った。

 一瞬、ミツキは、顔が膨れた。

「大将」

「はい」

「とんかつ二人前」

 と言った。

 アキヒコは、ミツキが、恋人と言われて、照れたのだ。本当は、「この人、恋人です」と胸を張って言えば良いのに、言えない。

 その瞬間、後悔の度合いが、80%になった。

『ヲタクに恋は難しい』のナルミとヒロタカは、幼馴染だしなぁと思った。アキヒコは、その時、自分が、恋愛映画とか小説を読みすぎたのではないかと悩んだ。

「フジサカさん」

「はい」

「何を悩んでいますか?」

「いや、俺って、恋愛映画とか観すぎかなぁと思って」

「どんな恋愛映画を観ていますか?」

 とミツキは、興味津々で、アキヒコに聞いた。

「『ヲタクに恋は難しい』とか、最近、観たなぁ」

 とアキヒコは、少しだけ、声のトーンを下げて言った。

「あの映画の高畑充希さんって、結婚しましたね」

「うん」

 自分は、今、映画の世界を脱却したいと思いながら、顔はミツキに興味がないふりをしながら、内心、アキヒコは、ミツキともっと深く関わり合いが、欲しいと思っていた。
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