いい夫婦の日
2024年12月になった。
外は、寒くて、コートを羽織って、マフラーに手袋をしている。アキヒコは、最近、「ああ、オレは、寒さに弱くなった」と感じている。
ミツキのおばあちゃんが、作家だなんて以外だった。
しかし、何となく、ミツキが、出版社の仕事をしたい気持ちが分かってきたように思う。
そして、アキヒコは、思ったのだ。
それは、ずっとアーティストとして、音楽や小説を仕事としていたアキヒコは、趣味で何かをしたことはなかった、ミツキみたいに。
ミツキは、ずっと、学校や地域のカルチャーセンターで、文化活動をしていたのだが、そんな人は、アキヒコは、ずっと苦手だったと分かっている。
それまで、アキヒコは、ずっと、頭で何かを作り出してはいた。
歌も小説も。
それで、学生時代から若い間は、良かったのだが、ある時から「フジサカさんの作品は、空っぽだ」と言われて、凹んでいた。アキヒコは、知識はあったのだが、いかんせん、経験がなかった。
経験がないから、勉強で得た知識はあっても、空しいと感じることが多かった。三浦しをん著『舟を編む』の馬締という大学院で言語学を専攻した男が、知識があっても、なかなか、空回りをしているのと同じだった。
アキヒコは、何としても、そんな小説やドラマ、映画の世界を乗り越えたいと思っている。
この間も、さっぽろゆきえの取材に行ったのだが、最近では、グラビアアイドルの取材でも、空しく感じていた。
ある日だった。
今日は、取材の日だった。
新橋の定食屋に、取材に行く予定だった。
今日は、ミツキと二人で、新橋まで行く予定だった。
ところが、アキヒコは、インフルエンザにかかった。
熱が、38度まであがった。
そして、病院で、タミフルを処方してもらった。
一人で、熱をあげてうんうんうなって、布団で寝ている。
「あのう、フジサカさん」
「はい」
と、アキヒコのLINEへ、ミツキから連絡があった。
「今日は、どうされたんですか?」
「インフルエンザにかかった」
と言った。
しまった、と思いながら、アキヒコは、正直に言った。
「今日は、仕事へ行けないんだ」
と言った。
すると、夕方4時になって、アキヒコのハイツに「ピンポーン!」とチャイムが、鳴った。
アキヒコは、誰だろう?と思った。
宅配便だろうか?
だが、アキヒコには、ほとんど、そんな盆暮れの付け届けをする友人や家族はいなかった。
もう親兄弟なんてろくに口も利いていなかった。
学生時代の友人なんてもう何年も会っていなかった。
「フジムラさん」
「はい」
「どうして、ここが分かったの?」
「部長に訳を話しして、教えてもらったんです」
「電車で、横浜まで来たの?」
「私、家が上大岡だから、近いんです」
「ああ、そうか」
とゴホゴホ咳をしながら
「オレの側にいたら、うつるぞ」
と言った。
実は、この数日、部屋が汚かった。
そして、部屋がかび臭い感じがしていた。
そして、布団の周りには、使ったティッシュペーパーやら、アクエリアスのペットボトルやら、カップヌードルの食べた後があった。
「先輩」
「何?」
ゴホゴホしながら、くしゃみをして、アキヒコは、言った。
「先輩」
「はい」
「先輩、私が、今から、部屋を掃除して、おじや作ります」
とミツキは、言った。
ああ、オレの部屋は、汚いのに、こんな女の子が、部屋に入って、綺麗にしている。
先輩は、布団で温まってください、そして、私が、部屋を綺麗にします、あ、エロ本落ちている、いけないこんなものを、いい年した男の人が読んで、なんて一人で、何か言いながら、部屋を掃除していた。
アキヒコは、髭がもじゃもじゃになっていたのだが、
「オレの顔は、汚いだろう」
と言ったら
「先輩は、二宮和也に似ているから、大丈夫です」
と彼女は、言った。
「あ、トイレも汚い」
と言いながら
「私が、掃除をします」
と言った。
これでは、まるで、ミツキが、オレの奥さんみたいになっているのではないかと思った。
いやだとか、訳の分からないことをつぶやきながら、でも『ヲタクに恋は難しい』で、ナルミは、風邪を引いているヒロタカの部屋に行って、料理をしていたなとか思った。
勿論、38度の熱が出て、コンコン咳をしているアキヒコは、そんなことより、少しだけ、寂しさが吹っ飛んだとも思う。
40代後半になっているが、ようやく、春が来たと思った。
そして、若い時は、分かっていなかったと感じた。そもそも、病気で悩むことなんてなかったからと思う。
そして、ミツキが、用意したおじやを、二人で、食べた。
「熱いね」
とか言いながら、ホフホフおじやをさせて食べた。
それは、かなりちょっとした束の間の幸せを感じていた二人だった。
外は、寒くて、コートを羽織って、マフラーに手袋をしている。アキヒコは、最近、「ああ、オレは、寒さに弱くなった」と感じている。
ミツキのおばあちゃんが、作家だなんて以外だった。
しかし、何となく、ミツキが、出版社の仕事をしたい気持ちが分かってきたように思う。
そして、アキヒコは、思ったのだ。
それは、ずっとアーティストとして、音楽や小説を仕事としていたアキヒコは、趣味で何かをしたことはなかった、ミツキみたいに。
ミツキは、ずっと、学校や地域のカルチャーセンターで、文化活動をしていたのだが、そんな人は、アキヒコは、ずっと苦手だったと分かっている。
それまで、アキヒコは、ずっと、頭で何かを作り出してはいた。
歌も小説も。
それで、学生時代から若い間は、良かったのだが、ある時から「フジサカさんの作品は、空っぽだ」と言われて、凹んでいた。アキヒコは、知識はあったのだが、いかんせん、経験がなかった。
経験がないから、勉強で得た知識はあっても、空しいと感じることが多かった。三浦しをん著『舟を編む』の馬締という大学院で言語学を専攻した男が、知識があっても、なかなか、空回りをしているのと同じだった。
アキヒコは、何としても、そんな小説やドラマ、映画の世界を乗り越えたいと思っている。
この間も、さっぽろゆきえの取材に行ったのだが、最近では、グラビアアイドルの取材でも、空しく感じていた。
ある日だった。
今日は、取材の日だった。
新橋の定食屋に、取材に行く予定だった。
今日は、ミツキと二人で、新橋まで行く予定だった。
ところが、アキヒコは、インフルエンザにかかった。
熱が、38度まであがった。
そして、病院で、タミフルを処方してもらった。
一人で、熱をあげてうんうんうなって、布団で寝ている。
「あのう、フジサカさん」
「はい」
と、アキヒコのLINEへ、ミツキから連絡があった。
「今日は、どうされたんですか?」
「インフルエンザにかかった」
と言った。
しまった、と思いながら、アキヒコは、正直に言った。
「今日は、仕事へ行けないんだ」
と言った。
すると、夕方4時になって、アキヒコのハイツに「ピンポーン!」とチャイムが、鳴った。
アキヒコは、誰だろう?と思った。
宅配便だろうか?
だが、アキヒコには、ほとんど、そんな盆暮れの付け届けをする友人や家族はいなかった。
もう親兄弟なんてろくに口も利いていなかった。
学生時代の友人なんてもう何年も会っていなかった。
「フジムラさん」
「はい」
「どうして、ここが分かったの?」
「部長に訳を話しして、教えてもらったんです」
「電車で、横浜まで来たの?」
「私、家が上大岡だから、近いんです」
「ああ、そうか」
とゴホゴホ咳をしながら
「オレの側にいたら、うつるぞ」
と言った。
実は、この数日、部屋が汚かった。
そして、部屋がかび臭い感じがしていた。
そして、布団の周りには、使ったティッシュペーパーやら、アクエリアスのペットボトルやら、カップヌードルの食べた後があった。
「先輩」
「何?」
ゴホゴホしながら、くしゃみをして、アキヒコは、言った。
「先輩」
「はい」
「先輩、私が、今から、部屋を掃除して、おじや作ります」
とミツキは、言った。
ああ、オレの部屋は、汚いのに、こんな女の子が、部屋に入って、綺麗にしている。
先輩は、布団で温まってください、そして、私が、部屋を綺麗にします、あ、エロ本落ちている、いけないこんなものを、いい年した男の人が読んで、なんて一人で、何か言いながら、部屋を掃除していた。
アキヒコは、髭がもじゃもじゃになっていたのだが、
「オレの顔は、汚いだろう」
と言ったら
「先輩は、二宮和也に似ているから、大丈夫です」
と彼女は、言った。
「あ、トイレも汚い」
と言いながら
「私が、掃除をします」
と言った。
これでは、まるで、ミツキが、オレの奥さんみたいになっているのではないかと思った。
いやだとか、訳の分からないことをつぶやきながら、でも『ヲタクに恋は難しい』で、ナルミは、風邪を引いているヒロタカの部屋に行って、料理をしていたなとか思った。
勿論、38度の熱が出て、コンコン咳をしているアキヒコは、そんなことより、少しだけ、寂しさが吹っ飛んだとも思う。
40代後半になっているが、ようやく、春が来たと思った。
そして、若い時は、分かっていなかったと感じた。そもそも、病気で悩むことなんてなかったからと思う。
そして、ミツキが、用意したおじやを、二人で、食べた。
「熱いね」
とか言いながら、ホフホフおじやをさせて食べた。
それは、かなりちょっとした束の間の幸せを感じていた二人だった。