無気力な王子様は、今日も私を溺愛したがる


まず、無気力に日々を過ごすようになった。

穏やかに、周りに優しく、なんてできなくて。
優穂さんや秋良さんに対しても、冷たい態度をとる日々が続いた。

それから、しばらくは部屋から出られなかった。

外になんてもってのほか。
だれもが幸せそうにしているのを見るのが、辛くて仕方がないと感じたからだ。

……幸せそうに、か。

ベッドの上、自分が思った言葉を頭の中で反芻する。

幸せそうな人……。
そう考えたときに、一人の人物が頭の中に浮かんだ。

片腕を額の上に乗せて、目を閉じる。

いつもいろんな人に囲まれていて、笑顔で、明るくて、人と関わるのが好きで。
悩みのひとつもなさそうなほど、幸せそうにしている人。

──朝倉玲奈。


「朝倉、玲奈……」


彼女の名前を小さく声にする。

僕の記憶は、去年の七月でぱたりと終わっている。
だけど、そんなあいまいな僕の記憶の中でもわかっていた。


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