無気力な王子様は、今日も私を溺愛したがる


朝倉玲奈が、だれよりも幸せそうに今を生きていることを。

始めは素敵だと思っていた。
幸せだと胸を張って生きることができることを。
笑顔でいることで、周りの人の笑顔を引き出すことを。

だけど、今の僕にとっては、それがなんともうらやましくて──妬ましくてたまらない。

あの日を境に崩れ去った幸せを、朝倉さんが持っていることが。
それを、周りに共有できることをも。

スーハー、と大きく深呼吸をしてから目を開ける。

朝倉玲奈は、僕にとって妬ましくてたまらない相手。

だから、それがあだになって、嫌いへと変わる。

僕は、朝倉玲奈が、嫌いだ。
大きな幸せを持っているから。

分かっている。それは僕の彼女に対する偏見でしかないこと。

でも、自分の中でどうしてもそれを肯定できなかった。

穏やかで人と関わることが好きで、優しいと言われていた〝僕〟から、無気力で最低で冷たくて、どうしようもない〝俺〟へと変わる。

この日を境に、僕は俺に変わったのだ。

だから、あの日から二週間後、変わり果てたクラスメイトたちに違和感を感じながら。

変わり果てた俺は、朝倉玲奈に嫌いだと告げた。


< 455 / 486 >

この作品をシェア

pagetop