無気力な王子様は、今日も私を溺愛したがる
無気力な王子様は、今日も私を溺愛したがる





ドクドク、と驚くほどに鼓動のスピードが速い。

想像もしないほどの一樹くんの壮絶な過去に、私は一言一句聞き逃せずにいる。


「その後俺は、あの日を境にして半年後の記憶も失った。
だから……、その日だけ鮮明に覚えているのに、前後半年の記憶は完全になかった」


苦しそうな声音で話す一樹くんに、胸が痛む。
記憶がなかったなんて、家族を亡くすなんてどれほど辛いことだろう。

私には、想像することもできない。


「だから、ついこの間まで、俺は玲奈に最初から惹かれていたことなんて覚えていなかった。
それに、玲奈を嫌いだと思っていた理由も分からなかった」


でも、と一樹くんは続ける。


「あの雷の夜、全部を思い出した。
もしかしたら……、駅で玲奈を助けたときとシチュエーションが似てたからかな」


駅で一樹くんに助けられたとき、私は一樹くんの胸の中に震えながらいた。
そして、あの雷の夜も、雷に怯えて震えながら、私は一樹くんの胸の中にいた。


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