深夜2時。
崩す者
深夜2時。

世界に私だけがいる。そんな風に思える特別な時間。

人にはきっとそれぞれ好きな時間がある。雨の日の夜とか、暁の空が広がる朝とか。ただの夕方が好きな人もいる。
その時間は、その人にとって世界が違って見える不思議な時間だ。ただ息をしているだけで全てが吹っ飛んですっきりした気持ちになるし、何処へでも行ける気にもなる。何だってできる気がするし何にでもなれる気がする。そんな時間。

深夜2時。
ベランダで紅茶を片手に空を見るだけ。それが私の日課。
この1人の時間だけ私は無敵だ。最高の気分になれる。

だけど最近、その時間を崩しにくる悪魔が現れた。
「なーづきちゃーん」

噂をすれば出たな悪魔。

「今日もやっぱ居んじゃん!この時間いいよねーわかるわ。俺ら気が合うじゃんね!」
そう無邪気に笑うこの悪魔は数日前、隣に越してきた。
名前は確か、浦鳥 海月。

相変わらず出会った時から騒がしい人だ。
「…どうも。」

そう一言言い、私は空に視線を戻す。
本当は耳栓でもしてやりたいが、以前同じことをして、無邪気な笑顔が一瞬で涙目に変わったのを見た時の罪悪感が激しかったのでもうしない。

「相変わらず冷めてるなぁ…。でも律儀に挨拶だけは返してくれるんだから可愛いよねぇ」

…無視するとまじ泣くかもじゃん君。
そう心の中で呟く。
そう思いながら空を見続けていたら唐突に彼が口を開いた。

「あ、そういえば俺、明日から新しい高校通うんだー、2年からの転校だから友達できるか超不安」

……ん?高校2年?それって同い年じゃん。
自分の中で胸騒ぎが起こる。
この人と一緒の学校だったらきっと声掛けてくるに決まってる。イケメン転校生だなんてただでさえ女子の大好物なのに標的にされてしまうじゃん……それだけは避けたい。

「…どこの高校に行くの?」
半ば祈りながら不安げに聞いてみる。

「えっとねぇ、確か…」

お願い、どうか違う高校名を言って…!

「白水花高校!」

終わった。明日からの学校生活まで崩れてしまう…。
…っ!やっぱり悪魔だ!

「那月ちゃんも高校生っぽいよね?何年なん?もしかして同じ高校とか?」

「…高校2年、白水花高校」

今にも消えそうな声だったがどうやら聞こえたらしい。


「まじ?!一緒じゃん!やっぱ知り合いいると安心するわー」
「めっちゃ話しかけるからめっちゃ話そーじゃん!」

宣言までされてしまった…。

1人でやったやったと盛り上がっている彼を他所に、私は明日からも平穏な生活が過ごせるよう空に祈っていた。
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