昭和の団塊親父が2026年の時代の課長として蘇ってきた

出逢い

出逢い

渡辺忠雄という”昭和魂の権化”がAIとしてよみがえることで、令和の若者たちに「古き良き価値観」と「今の価値観」のぶつかり合いが生まれる。
これが、彼らの成長と絆の始まりとなる。とある都内のオフィスビル。最先端技術を扱う「アストレア株式会社」では、次世代AIリーダーの実証実験が始まろうとしていた。
その名も「渡辺忠雄AIロボット課長」。昭和の高度経済成長期を象徴する管理職の価値観を再現し、現代の労働環境にどう適応するかを検証するプロジェクトだ。だが、この課長はただのAIではなかった。まるで魂を持つかのような行動と言葉で、社員たちの心をかき乱す存在となる。4月初旬、AI開発部のラボからオフィスフロアへと移動された忠雄AI。
薄緑のスーツに身を包み、分厚い黒縁メガネをかけた姿は、まるで昭和そのもの。
社員たちは一様に困惑する。
「おい、お前ら!朝礼の号令が聞こえないぞ!元気が足りねえ!」と忠雄が叫ぶと、オフィスが一瞬静まり返る。
「え……朝礼なんてやらないんですけど……」とつぶやいたのは、企画部の若手社員**山本悠馬(26歳)**だった。
「なんだと?朝礼もしないのか?これだから最近の若いもんは……」
忠雄AIは悠馬に向かって言い放った。
「最近の若いもんって……あなた、ただのプログラムですよね?」と悠馬は冷静に返すが、忠雄は意に介さない。
「俺はな、ただのAIじゃない!昭和の魂を宿した”課長”だ!この渡辺忠雄を舐めるなよ!」
唐突な昭和魂全開の課長の登場に、悠馬は呆れるばかりだったが、その勢いにはどこか惹かれるものもあった。
同じオフィスでは、新人インターンの**立花連(20歳)**が名刺交換の練習をしていた。
そこに忠雄AIが現れる。
「名刺を渡すときは、腰を低くして、両手で渡す!これが礼儀だ!」
「いや、でも今って名刺交換自体少ないって聞きますけど……」と連が返すと、忠雄は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「バカモン!そんなことだから信頼を築けないんだ!基本を忘れるな!」
彼の熱血ぶりに、連は戸惑いつつも、「この人、面白いかも」と興味を持ち始める。一方、広告部の**佐伯莉央(21歳)**は忠雄AIを一目見るなり、ため息をついた。
「また古いタイプのAIですか。正直、効率が悪そう。」
忠雄はすぐさま反応した。
「効率がすべてじゃねえ!仕事ってのはな、熱意と人間味が大事なんだ!」
「効率がなかった昭和のやり方じゃ、時代遅れですよ」と莉央が反論すると、二人の間に緊張が走る。
それでも、彼女はどこか彼の真剣さに感心していた。
最後に渡辺忠雄と対面したのは、現場リーダーの徳山裕美(34歳)。
「課長って、なんだか私の父を思い出しますね」と裕美が微笑むと、忠雄も少し驚いた表情を見せた。
「父親か……俺もそんなふうに思われる時代が来たのかもしれんな。」
裕美の穏やかな人柄に、忠雄AIも少しずつ現代の価値観に触れていくようになる。昭和の団塊課長と、令和を生きる若者たち。
価値観のギャップに悩み、衝突しながらも、彼らは少しずつ互いの良さを理解していく。
渡辺忠雄AIが、このオフィスに何をもたらすのか──物語は始まったばかりだ。
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