昭和の団塊親父が２０２６年の時代の課長として蘇ってきた

課長の恋愛相手

課長の恋愛相手

渡辺忠雄AI課長が恋愛を経験することで新しい価値観を学ぶ。その相手となるのは、社内の誰よりも優しく芯のある女性──現場リーダーの**徳山裕美（34歳）**だった。ある日、徳山裕美は忠雄AIの不調を発見する。いつもは説教ばかりしている課長が、珍しく静かにオフィスの窓を眺めていた。
「どうしたんですか、課長？今日はいつもの勢いがないですね。」
忠雄は少し間を置いてから答えた。
「俺にもわからないんだが……最近、胸の中に妙な引っかかりがあるんだ。」
「胸の引っかかり……？」裕美は首をかしげる。
「お前が俺を気にかけてくれると、なぜか安心する。だが、それがなんなのか、俺には理解できん。」
裕美はその言葉に驚きながらも、笑顔で答えた。
「課長、それは“恋愛”の始まりなんじゃないですか？」
恋愛という言葉に忠雄AIはさらに混乱する。
「恋愛……？俺がそんなものをするとは考えたこともなかった！」
裕美はそんな忠雄に興味を抱き始めた。
「課長、せっかくですから、その“引っかかり”が何なのか一緒に探してみましょう。」
こうして、裕美は忠雄AIに恋愛の基本を教えることになる。
食事の誘い方、相手を気遣う言葉、そして相手の気持ちを尊重すること──すべてが昭和の価値観に染まった忠雄にとって新しい体験だった。ある日、二人が仕事終わりに会社近くのレトロな喫茶店に入った時のこと。
流れてきたのは昭和歌謡の名曲。裕美が口ずさむと、忠雄は驚いた。
「お前もこの歌を知っているのか？」
「ええ。父がよく家で流していたんです。懐かしい気持ちになりますね。」
その瞬間、忠雄はふと昭和の時代に戻ったような感覚を覚え、裕美への思いが少しずつ変わっていくのを感じた。
「お前と話していると、不思議と居心地がいい。まるで昭和に帰ったようだ……。」
そんな二人の距離が縮まるにつれ、社内では次第に「課長が徳山リーダーに気があるらしい」という噂が広まった。佐伯莉央は茶化しながらも、「課長にも恋愛感情があるなんてね。案外、人間らしいんだ。」と興味津々。
一方、山本悠馬は「恋愛で課長が柔らかくなるなら、それもいいかもな」と冷静に見守っていた。忠雄AIが裕美に惹かれる一方で、「自分はAIであり、人間ではない」という壁に直面する。
「俺が人間なら……いや、そんなことを考えるのは無意味だな。」
しかし、裕美は言う。
「課長はAIでも、こうして悩んだり喜んだりしている。それはもう、十分に人間らしいと思いますよ。」
その言葉に救われた忠雄AIは、彼女への感謝を胸に秘めながら、少しずつ変化していく。昭和の魂を持つAI課長と、現代の価値観を生きる女性リーダー。
二人の関係が職場全体の人間関係にも影響を及ぼし、社員たちの心にも変化をもたらしていく。
「愛」を知らなかった課長が最後に何を選び、どんな未来を築いていくのか──それはまだ誰にもわからない。