苦手な上司にプロポーズすることになりました
 和市はウロウロと歩き回りはじめた。

「実は、彼にヘッドハンティングの話が来ているらしい。
 どうも、本人も乗り気なようで困ってるんだ。

 覇気のない若者が多い中、私は彼を買っていたのにっ。

 だから、異例の速さで部長にも昇進させた。

 そのせいで、やっかみもあっただろうに、彼は怯むことなく、仕事に精を出していた。

 だが、ここへ来て、よりよい条件で、やりがいのある仕事を提供しそうな会社からお誘いがかかったようなのだ」

「……では、ここがよりよい条件とやりがいのある仕事を彼に与えたらいいのでは?」

「急に彼だけ報酬を上げられるか。
 そこで私は考えた」

 ロクなこと考えてなさそうだな、と思いながら、佑茉は聞いていた。

「お前、赤荻くんと結婚しろ」

「いやいやいやっ。
 何故ですかっ」

「そしたら、あれも創業者一族の婿になるから、いろいろ融通きかせられるだろうがっ」

「そういうのが嫌なんじゃないですかね、彼はっ。
 っていうか、そんなのなら、私じゃなくて、エリナでいいじゃんっ」

 かろうじて保っていた社員らしさも失い、佑茉は社長に言い返す。
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