兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした


 レティシアが祖母から縁談話を持ち掛けられた翌日。レティシアはいつものように朝食を準備していたが、その動きはいつもより覇気がない。

(どうしよう、昨日の話が頭から離れなくて仕事に集中できない。どうしておばあちゃんは突然あんなこと、しかも団員のみんなに聞こえるようなところで言うのかな)

 はぁ、とため息をつきながらテーブルに朝食を並べていると、団員たちが次々とやってきて席に座りはじめる。

「なぁ、結婚するのか?」

「きのうの話ほんとなの?僕、驚いちゃった」

「なんだよその話、詳しく聞かせろよ」

 昨日の話を聞いていた団員がレティシアに質問すると、あの場に居合わせなかった団員が興味深そうにさらに質問してくる。

「ああもう、いいから黙って朝ごはん食べてよ」

「なんだよ、教えてくれよ!俺たち気になってこれからの仕事が手につかないかもしれないだろ」

 レティシアが反論しても団員は粘って話を聞き出そうとする。困ったレティシアが適当に話を切り上げてその場を後にしようとしたその時。

 ダンッ!!!

 机を思いっきり叩く音がして、その場の誰もが驚く。音のする方を見ると、そこには机に拳をたたきつけ、鬼の形相をしたアスールの姿があった。

「お前ら、いい加減にしろ。これ以上ごたごた言って寮母の手を煩わせるようだったら朝食は抜きだ。さっさとここから出ていけ」

 地を這うようなドスの効いたその声に、その場が凍り付く。禍々しい怒気を発しているアスールの横では、ノアールがしれっとした顔で朝食を食べ始めた。

 団長の恐ろしい形相に、さっきまでレティシアに絡んでいた団員たちもすっかり大人しくなった。レティシアはホッと胸をなでおろすが、アスールを見て胸の奥がチクリと傷んだ。

(団長は昨日の話、どこまで知っているんだろう)

 団員の騒ぎにあれだけ怒っているのだ、寮母の縁談話なんてくだらないことで団員の指揮が下がることに怒っているのかもしれない。アスールに迷惑をかけてしまったと思うとレティシアは苦しくなる。

(きっと団長にとっては私が結婚しようがしまいが関係ないかもしれない。でも、私は……)

 胸の内に広がるモヤモヤを振り払うかのように、レティシアは頭をブンブンと振り、朝食のおかわりをねだる団員の元へ駆け寄った。そしてそんなレティシアとアスールの様子を、ブランシュは真顔で静かに見つめていた。


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