兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
ライバル
「よう、ブランシュ」
とある昼下がり、ブランシュが稽古が終わって中庭を一人歩いていると、突然声をかけられた。声のする方へ視線を向けると、そこには壁に背をもたれさせながら腕を組んでくつろいでいるノアールがいた。
ろくに稽古にも出ずさぼってばかりいるくせに、実際の任務では恐ろしいほどの実力を発揮する得体のしれない先輩だ。あまり話をしたこともないのに突然なぜ声をかけられたのだろうかとブランシュは不安になる。
「あぁ、そんなに警戒すんなよ。お前、レティシアのこと好きなんだろ?」
突然話しかけられたあげくに突拍子もないことを言われて、いつもは冷静沈着なブランシュも目を大きく見開いてしまう。
「ははは、すまんすまん。いや、俺はレティシアともアスールとも旧知の仲なんだ。あいつらのことを見ていれば自然とお前のレティシアへの視線や態度も目に入るからさ」
ブランシュの様子にくくく、と嬉しそうに笑い、ノアールは話を続けた。そんなノアールの話を聞いてブランシュは一瞬方眉をしかめたが、すぐにいつもの無表情に戻り尋ねる。
「……それで、一体俺になんの用でしょうか」
「レティシアの縁談、どうするんだ」
ノアールの質問にブランシュは無言になる。
「団長や寮母さんと旧知の仲なら、先輩はお二人の仲を応援しているんですよね。どうして俺にそんなことを聞くんでしょうか」
「まぁ、確かにあの二人がくっついてくれれば俺は嬉しいさ。でも、アスールのあの様子じゃあいつは何もしないし何も動かないだろ。見ててイライラしてくるくらいなんだよ」
やれやれというように肩をすくめてノアールはブランシュを見る。
「だったら、俺はレティシアが幸せになれる相手と幸せになってほしい。お前はレティシアのこと大切に思ってるみたいだしな。行動や仕草を見ていればわかる」
さぼってばかりいるくせに、人の行動や仕草はしっかりと観察しているらしい。さすがは実戦となると恐ろしいほどの実力を発揮する騎士だ、この先輩はあなどれない。ブランシュが目を細めると、ノアールはさらに話を進める。
「それに、お前が何かしら動けばあいつもちょっとは意識が変わるかもしれないだろ」
「俺に、お膳立てをしろと言うのですか」
「いや、そういうわけじゃない。お前が動いてもあいつは結局何もできないかもしれないしな。そうなったらこっちも知ったこっちゃないんだわ。ただ、お前には後悔してほしくないんでね」
最後の一言が気になりチラリと視線をノアールに送ると、ノアールはニッと口の端を上げて笑う。
「俺は好きだった相手に気持ちを伝えることができなかった。できないまま、相手が他の男と一緒になるのを指をくわえて見てるしかできなかったんだよ。そのせいで今でも俺は誰のことも愛せない。ずっと心の奥底に昔の気持ちがへばりついたままだ。お前にはそんな風になってほしくないんでね」
まさかこのさぼり癖のある先輩にそんな過去があっただなんて思えず、ブランシュは驚く。見た目は悪くない上に実力はあるのでそれなりにモテるはずだし、実際に言い寄って来る女性は多いらしい。だが、確かにノアールについて浮いた話は聞いたことがなかった。
「……過去の自分と俺を重ねているわけですか」
「昔の俺はお前みたいに品行方正で冷静沈着でもなかったけどな。まぁ、そんなわけだからお前さんには何かしら頑張ってほしいと思ってるわけだ」
「……お気遣い感謝します。ですが、俺は先輩に言われなくても寮母さん……レティシアのことを本気で思っていますし、レティシアが幸せであればそれでいいと思っていますので」
「ひゃ~!そんな恥ずかしいことをサラッとスマートに言えてしまうあたり、ほんと俺とは似てるようで全然違うわ。お前なら大丈夫そうだな」
まぁがんばれよ、そう言ってノアールは手を振りながら背を向けて去っていった。
とある昼下がり、ブランシュが稽古が終わって中庭を一人歩いていると、突然声をかけられた。声のする方へ視線を向けると、そこには壁に背をもたれさせながら腕を組んでくつろいでいるノアールがいた。
ろくに稽古にも出ずさぼってばかりいるくせに、実際の任務では恐ろしいほどの実力を発揮する得体のしれない先輩だ。あまり話をしたこともないのに突然なぜ声をかけられたのだろうかとブランシュは不安になる。
「あぁ、そんなに警戒すんなよ。お前、レティシアのこと好きなんだろ?」
突然話しかけられたあげくに突拍子もないことを言われて、いつもは冷静沈着なブランシュも目を大きく見開いてしまう。
「ははは、すまんすまん。いや、俺はレティシアともアスールとも旧知の仲なんだ。あいつらのことを見ていれば自然とお前のレティシアへの視線や態度も目に入るからさ」
ブランシュの様子にくくく、と嬉しそうに笑い、ノアールは話を続けた。そんなノアールの話を聞いてブランシュは一瞬方眉をしかめたが、すぐにいつもの無表情に戻り尋ねる。
「……それで、一体俺になんの用でしょうか」
「レティシアの縁談、どうするんだ」
ノアールの質問にブランシュは無言になる。
「団長や寮母さんと旧知の仲なら、先輩はお二人の仲を応援しているんですよね。どうして俺にそんなことを聞くんでしょうか」
「まぁ、確かにあの二人がくっついてくれれば俺は嬉しいさ。でも、アスールのあの様子じゃあいつは何もしないし何も動かないだろ。見ててイライラしてくるくらいなんだよ」
やれやれというように肩をすくめてノアールはブランシュを見る。
「だったら、俺はレティシアが幸せになれる相手と幸せになってほしい。お前はレティシアのこと大切に思ってるみたいだしな。行動や仕草を見ていればわかる」
さぼってばかりいるくせに、人の行動や仕草はしっかりと観察しているらしい。さすがは実戦となると恐ろしいほどの実力を発揮する騎士だ、この先輩はあなどれない。ブランシュが目を細めると、ノアールはさらに話を進める。
「それに、お前が何かしら動けばあいつもちょっとは意識が変わるかもしれないだろ」
「俺に、お膳立てをしろと言うのですか」
「いや、そういうわけじゃない。お前が動いてもあいつは結局何もできないかもしれないしな。そうなったらこっちも知ったこっちゃないんだわ。ただ、お前には後悔してほしくないんでね」
最後の一言が気になりチラリと視線をノアールに送ると、ノアールはニッと口の端を上げて笑う。
「俺は好きだった相手に気持ちを伝えることができなかった。できないまま、相手が他の男と一緒になるのを指をくわえて見てるしかできなかったんだよ。そのせいで今でも俺は誰のことも愛せない。ずっと心の奥底に昔の気持ちがへばりついたままだ。お前にはそんな風になってほしくないんでね」
まさかこのさぼり癖のある先輩にそんな過去があっただなんて思えず、ブランシュは驚く。見た目は悪くない上に実力はあるのでそれなりにモテるはずだし、実際に言い寄って来る女性は多いらしい。だが、確かにノアールについて浮いた話は聞いたことがなかった。
「……過去の自分と俺を重ねているわけですか」
「昔の俺はお前みたいに品行方正で冷静沈着でもなかったけどな。まぁ、そんなわけだからお前さんには何かしら頑張ってほしいと思ってるわけだ」
「……お気遣い感謝します。ですが、俺は先輩に言われなくても寮母さん……レティシアのことを本気で思っていますし、レティシアが幸せであればそれでいいと思っていますので」
「ひゃ~!そんな恥ずかしいことをサラッとスマートに言えてしまうあたり、ほんと俺とは似てるようで全然違うわ。お前なら大丈夫そうだな」
まぁがんばれよ、そう言ってノアールは手を振りながら背を向けて去っていった。