兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
本当の気持ち
一日の業務が終わり、レティシアは寮内の見回りをしていた。団員たちも各自部屋に戻り、寮内はいたって静かだ。
(今日は団長と全然目が合わなかったな。合ってもすぐそらされるし)
朝の一件以来、アスールはレティシアの方を全く見ない。ほんの一瞬、目が合ったかと思ってもすぐにそらされてしまう。いつもなら目が合うと優しい微笑みを向けてくれるのに、それが全くないのだ。アスールのいつもと違う様子に、レティシアは胸が苦しくて仕方がない。
ふと、目の前から人影が歩いてくるのが見える。廊下の明かりに照らされてその姿がはっきりわかると、レティシアは目を見張った。前からやって来るのは、今しがた思いをはせていた団長その人だ。
(また、目をそらされてしまうのかも……)
あまりの怖さに思わず目を瞑りうつむいていると、目の前で人の気配が止まる。そっと目を開け上を向くと、そこには悲しげに微笑むアスールの姿があった。
「団長……」
レティシアが思わずつぶやくと、アスールは苦しそうな表情でレティシアを見つめる。
「レティシア、今日はごめん。ずっとそっけない態度をとってしまった」
急にそう言って静かに頭を下げるアスールに、レティシアは驚いて何も言えなくなる。何も言わないレティシアを不思議に思ったアスールが頭を上げ、レティシアの顔を見て目を見張った。そこには、両目に涙をいっぱい浮かべたレティシアの顔があった。
「レティシア、ごめん、レティシア」
アスールが必死に謝ると、レティシアの瞳からポロポロと涙がこぼれおちる。
「あれ、ご、ごめんなさい。泣きたいわけではなくて、あの……」
涙を必死に袖で拭きながら、レティシアはアスールを見つめて言った。
「団長が、私のことを、見てくれて、嬉しくて」
そう言いながら涙を両目に浮かべてふわっと微笑むレティシアを見て、アスールの胸は張り裂けんばかりだった。
「私、私のせいで団員の指揮が下がって団長が怒っているんだと思って、団長に迷惑をかけたと思って……」
「違う、そんなことはない。レティシアのせいじゃない。だからお願いだ、もう泣かないで」
そっとレティシアの目じりにアスールの指が触れる。優しく涙をすくうと、アスールは辛そうな顔でレティシアを見つめた。そんなアスールをぼんやりと見つめながら、レティシアは静かに口を開く。
「団長は、私が結婚するとしたら、どう思いますか」
ぽつり、とそうつぶやくと、レティシアはハッとして両手で口を塞ぐ。
(わ、私、急に何を言ってるの!?いくら団長と目が合ってホッとしたからって)
無自覚で出てきてしまった言葉に慌てていると、アスールは困ったように微笑んだ。
「レティシアは、結婚したい?したくない?」
アスールの言葉に、レティシアはアスールの目をじっと見つめた。
「……わからないんです。突然すぎて、何がなんだか。お相手のこともよくわからないし。とにかく、顔合わせに来てみればわかるとだけ祖母に言われたんですけど」
レティシアの返事に、アスールは一瞬眉をしかめてからすぐにまた微笑みをつくった。
「もしかしたらレティシアの知っている人間なのかもしれないな。……それなら、会ってみてから決めることだってできる。もし会ってみて嫌だったら断ればいい」
「……もし、嫌じゃなかったら?」
不安そうなレティシアの様子に、アスールは胸が痛くなる。だが、そんな胸の痛みを表に出すことはせず、静かに拳を握り締めた。
「レティシアのことなんだから、レティシアが自分で決めるんだよ。俺は、レティシアが決めたことならどんなことだって応援する。だから大丈夫」
アスールの言葉を聞いて、レティシアは両目を見開いた。そして、そっと静かに目を瞑り、すぐに開いてアスールをジッと見つめる。その顔はずいぶんとすっきりとしていた。
「……わかりました、ありがとうございます。団長」
(今日は団長と全然目が合わなかったな。合ってもすぐそらされるし)
朝の一件以来、アスールはレティシアの方を全く見ない。ほんの一瞬、目が合ったかと思ってもすぐにそらされてしまう。いつもなら目が合うと優しい微笑みを向けてくれるのに、それが全くないのだ。アスールのいつもと違う様子に、レティシアは胸が苦しくて仕方がない。
ふと、目の前から人影が歩いてくるのが見える。廊下の明かりに照らされてその姿がはっきりわかると、レティシアは目を見張った。前からやって来るのは、今しがた思いをはせていた団長その人だ。
(また、目をそらされてしまうのかも……)
あまりの怖さに思わず目を瞑りうつむいていると、目の前で人の気配が止まる。そっと目を開け上を向くと、そこには悲しげに微笑むアスールの姿があった。
「団長……」
レティシアが思わずつぶやくと、アスールは苦しそうな表情でレティシアを見つめる。
「レティシア、今日はごめん。ずっとそっけない態度をとってしまった」
急にそう言って静かに頭を下げるアスールに、レティシアは驚いて何も言えなくなる。何も言わないレティシアを不思議に思ったアスールが頭を上げ、レティシアの顔を見て目を見張った。そこには、両目に涙をいっぱい浮かべたレティシアの顔があった。
「レティシア、ごめん、レティシア」
アスールが必死に謝ると、レティシアの瞳からポロポロと涙がこぼれおちる。
「あれ、ご、ごめんなさい。泣きたいわけではなくて、あの……」
涙を必死に袖で拭きながら、レティシアはアスールを見つめて言った。
「団長が、私のことを、見てくれて、嬉しくて」
そう言いながら涙を両目に浮かべてふわっと微笑むレティシアを見て、アスールの胸は張り裂けんばかりだった。
「私、私のせいで団員の指揮が下がって団長が怒っているんだと思って、団長に迷惑をかけたと思って……」
「違う、そんなことはない。レティシアのせいじゃない。だからお願いだ、もう泣かないで」
そっとレティシアの目じりにアスールの指が触れる。優しく涙をすくうと、アスールは辛そうな顔でレティシアを見つめた。そんなアスールをぼんやりと見つめながら、レティシアは静かに口を開く。
「団長は、私が結婚するとしたら、どう思いますか」
ぽつり、とそうつぶやくと、レティシアはハッとして両手で口を塞ぐ。
(わ、私、急に何を言ってるの!?いくら団長と目が合ってホッとしたからって)
無自覚で出てきてしまった言葉に慌てていると、アスールは困ったように微笑んだ。
「レティシアは、結婚したい?したくない?」
アスールの言葉に、レティシアはアスールの目をじっと見つめた。
「……わからないんです。突然すぎて、何がなんだか。お相手のこともよくわからないし。とにかく、顔合わせに来てみればわかるとだけ祖母に言われたんですけど」
レティシアの返事に、アスールは一瞬眉をしかめてからすぐにまた微笑みをつくった。
「もしかしたらレティシアの知っている人間なのかもしれないな。……それなら、会ってみてから決めることだってできる。もし会ってみて嫌だったら断ればいい」
「……もし、嫌じゃなかったら?」
不安そうなレティシアの様子に、アスールは胸が痛くなる。だが、そんな胸の痛みを表に出すことはせず、静かに拳を握り締めた。
「レティシアのことなんだから、レティシアが自分で決めるんだよ。俺は、レティシアが決めたことならどんなことだって応援する。だから大丈夫」
アスールの言葉を聞いて、レティシアは両目を見開いた。そして、そっと静かに目を瞑り、すぐに開いてアスールをジッと見つめる。その顔はずいぶんとすっきりとしていた。
「……わかりました、ありがとうございます。団長」