兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした



 レティシアが縁談相手と顔合わせをする日になった。レティシアは前日の夜から実家に帰省し、朝になるとすぐに身支度が始まった。

「今日はお嬢様にとって大事な日ですからね!うんと可愛く仕上げますよ!」

 そう言って張り切るメイドたちに苦笑しつつ、レティシアはぼんやりとアスールのことを考えていた。

(結局、昨日は団長に会えずじまいだったな)

 アスールに手と額へキスをされた翌日。どんな顔で会えばいいのだろうと緊張していたが、アスールはレティシアの前に姿を現さなかった。不思議に思い、昔からアスールと仲の良いノアールに聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。

「あいつなら今日と明日の二日間、急遽休みを取ったみたいだぜ。突然だったから何かあったんだろうけど」

「そう、ですか……」

 レティシアが残念そうな顔をすると、ノアールは優しい微笑みを浮かべた。

「そういえば、レティシアは明日縁談相手と顔合わせなんだってな」

「どうしてそれを?」

 ブランシュには成り行きで話をしていたが、あのブランシュが他の団員にわざわざ話をするとは思えない。

「ばぁさんに聞いた。ばぁさん、昨日の夜急にアスールのところに来たんだよ」

「おばぁさまが?」

 いつもなら自分のところに顔を出すはずなのに、なぜ昨日は団長のところに顔を出したのだろうか。不思議に思っていると、ノアールがレティシアの頭の上にぽん、と手を優しく乗せる。

「そんなことよりもだ。明日は緊張するだろうけど、まぁ悪いことにはならないだろうからあんまり気を張りすぎないようにな。考え込んだって行ってみなけりゃわからないんだし。レティシアなら大丈夫だ、俺が保証する。まぁ俺の保証なんて頼りないかもしれないけどな」

 そう言って優しく頭を撫でてノアールはフッと笑った。アスールと昔から仲の良いノアールは、レティシアが寮母になってから、アスール同様に自分のことをまるで妹のように可愛がってくれている。その優しさが嬉しくてレティシアは思わず笑顔になった。

「ありがとうございます。ちょっと心が晴れました」

 そう言ってペコリとお辞儀をして立ち去るレティシアを、ノアールは手で口元を隠して見送る。レティシアの笑顔を見た瞬間、昔懐かしい思い人の笑顔を思い出して思わず胸が高鳴ってしまったのだ。

 アスールのレティシアへの気持ちを知っているし、レティシアも恐らくはアスールのことが気になっているだろうことはわかっているから、二人のことは陰ながら応援している。今までレティシアを見てもこんなことはなかったのだから、まさか胸が高鳴るなんて思いもせず、激しく動揺した。

(笑顔を見て思い出すなんて、それもそうだよな。レティシアはあいつの妹なんだから……)

 もしもこんな所をアスールに見られたら何を言われるかわかったもんじゃないなと、ノアールは痛む心をごまかすように頭をガシガシとかきながら苦笑した。



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