兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
レティシアの縁談相手がアスールだったということは、瞬く間に寮内に広まっていた。
「まさか縁談相手が団長だったなんて、なんですぐに教えてくれなかったんだよ!」
「団長か〜団長なら安心してレティシアのこと任せられるよな」
「おい、お前は一体何目線なんだよ」
二人について団員たちがあれやこれやと騒いでいる中、すこし離れた場所でブランシュは壁によりかかり静かにため息をついていた。
「縁談相手が団長じゃ、太刀打ちできないな……」
ブランシュの静かな呟きは誰の耳に入ることなく、静かに消えていった。
◇
アスールとレティシアは婚約したが、二人は寮内では今までと変わることなく過ごしていた。
二人とも婚約したからといって自分の仕事をおそろかにするような人間ではない。アスールにいたってはむしろ騎士団長としてさらに厳しさを増したと、騎士団内で噂になっている。
「……ブランシュ」
「団長。お疲れ様です」
廊下でバッタリと出会ったブランシュに対してアスールはほんの少し気まずそうな顔をしたが、ブランシュはいつもと変わらず真顔でアスールを見つめている。
「こうして二人きりで話をするのは久しぶりですね」
「そうだな」
ブランシュは表情が読めない。そのままお互いに無言で、アスールはどうしたものかと真剣な顔で床を見つめていたが、ブランシュが静かに口を開いた。
「婚約、おめでとうございます」
「あ、あぁ、ありがとう。まさかそんな風に言ってもらえると思わなかった」
「恨みを吐くとでも?負け犬の遠吠えをするほど落ちぶれていません。団長に勝てるだなんて思ってもいませんし。それに俺はレティシアが幸せならそれで良いですから」
最後の一言に、アスールの眉が一瞬ぴくり、と動く。
「……ただ、レティシアが悲しむようなことがあれば、俺はすぐにでもあなたからレティシアを奪いますので、絶対にレティシアを悲しませないでくださいね」
静かにそう告げるブランシュをアスールはじっと見つめ、おろしている手を静かに握りしめる。
「言われなくてもレティシアを悲しませるようなことは絶対にしないし、レティシアを幸せにする。だから心配するな」
「それならよかったです。安心しました」
フッ、と悲しそうに微笑み、ブランシュは一礼してアスールの前から立ち去った。
「……あれで心が少しでも荒れるなんて、俺もまだまだ大人げないな」
静かにため息をついたが、アスールはすぐに気持ちを切りかえて歩き出した。
◇
「あの……この状況はさすがにまずいのでは」
「ここでなら誰にも見られないし、久々に愛しい婚約者に会えたんだ、これくらいは許されるだろ」
一週間の遠征から帰還したアスールは、執務室でレティシアを抱きしめている。
「ずっと会いたかった。やっと会えたんだ、こうなってしまうのは仕方ない。それとも、会いたいと思っていたのは俺だけ?」
体を密着させたまま、アスールはレティシアの顔を覗き込む。愛おしいものを見つめる熱い眼差しとアスールのあまりの色気に、レティシアは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……私だって、会いたかった」
レティシアの言葉にアスールは満足げに微笑む。そしてそのまま、レティシアにキスをしようと顔を近づけた。
「ちょっ、さすがにここでそれは……まだ勤務中ですし」
「誰にも見られないんだからキスくらいは許してほしい。それが許されないなら、今夜は大変なことになると思うけど?」
「な、な、何を言って……!〜っ、もう!」
顔を真っ赤にして抗議するレティシアの唇に、アスールは嬉しそうにキスを落とした。
「まさか縁談相手が団長だったなんて、なんですぐに教えてくれなかったんだよ!」
「団長か〜団長なら安心してレティシアのこと任せられるよな」
「おい、お前は一体何目線なんだよ」
二人について団員たちがあれやこれやと騒いでいる中、すこし離れた場所でブランシュは壁によりかかり静かにため息をついていた。
「縁談相手が団長じゃ、太刀打ちできないな……」
ブランシュの静かな呟きは誰の耳に入ることなく、静かに消えていった。
◇
アスールとレティシアは婚約したが、二人は寮内では今までと変わることなく過ごしていた。
二人とも婚約したからといって自分の仕事をおそろかにするような人間ではない。アスールにいたってはむしろ騎士団長としてさらに厳しさを増したと、騎士団内で噂になっている。
「……ブランシュ」
「団長。お疲れ様です」
廊下でバッタリと出会ったブランシュに対してアスールはほんの少し気まずそうな顔をしたが、ブランシュはいつもと変わらず真顔でアスールを見つめている。
「こうして二人きりで話をするのは久しぶりですね」
「そうだな」
ブランシュは表情が読めない。そのままお互いに無言で、アスールはどうしたものかと真剣な顔で床を見つめていたが、ブランシュが静かに口を開いた。
「婚約、おめでとうございます」
「あ、あぁ、ありがとう。まさかそんな風に言ってもらえると思わなかった」
「恨みを吐くとでも?負け犬の遠吠えをするほど落ちぶれていません。団長に勝てるだなんて思ってもいませんし。それに俺はレティシアが幸せならそれで良いですから」
最後の一言に、アスールの眉が一瞬ぴくり、と動く。
「……ただ、レティシアが悲しむようなことがあれば、俺はすぐにでもあなたからレティシアを奪いますので、絶対にレティシアを悲しませないでくださいね」
静かにそう告げるブランシュをアスールはじっと見つめ、おろしている手を静かに握りしめる。
「言われなくてもレティシアを悲しませるようなことは絶対にしないし、レティシアを幸せにする。だから心配するな」
「それならよかったです。安心しました」
フッ、と悲しそうに微笑み、ブランシュは一礼してアスールの前から立ち去った。
「……あれで心が少しでも荒れるなんて、俺もまだまだ大人げないな」
静かにため息をついたが、アスールはすぐに気持ちを切りかえて歩き出した。
◇
「あの……この状況はさすがにまずいのでは」
「ここでなら誰にも見られないし、久々に愛しい婚約者に会えたんだ、これくらいは許されるだろ」
一週間の遠征から帰還したアスールは、執務室でレティシアを抱きしめている。
「ずっと会いたかった。やっと会えたんだ、こうなってしまうのは仕方ない。それとも、会いたいと思っていたのは俺だけ?」
体を密着させたまま、アスールはレティシアの顔を覗き込む。愛おしいものを見つめる熱い眼差しとアスールのあまりの色気に、レティシアは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……私だって、会いたかった」
レティシアの言葉にアスールは満足げに微笑む。そしてそのまま、レティシアにキスをしようと顔を近づけた。
「ちょっ、さすがにここでそれは……まだ勤務中ですし」
「誰にも見られないんだからキスくらいは許してほしい。それが許されないなら、今夜は大変なことになると思うけど?」
「な、な、何を言って……!〜っ、もう!」
顔を真っ赤にして抗議するレティシアの唇に、アスールは嬉しそうにキスを落とした。