兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
◇
夜になり、ブランシュは人気のない寮の一角で月明かりの下で木刀を振っていた。ブランシュはここでいつも夜中に一人で稽古をしている。今日もいつもと変りなく木刀を振っている、はずだった。
木刀を振る手に力がこもり、一心不乱にブランシュは木刀を振り回す。いつもは正確な動きなのに、今日は手あたり次第に振り回している。ビュンビュンと木刀が風を切る音が強くなり、ブランシュは木刀を地面に振り下ろした。
バキッ
木刀が真っ二つに割れる。はあはあと肩で息をしながら、ブランシュは割れた木刀を静かに見つめていた。
「よう、精が出るな」
突然声がしてブランシュはびくりとする。視線を向けるとそこにはいつかのように壁に背をもたれかけているノアールがいた。いつかと違うのは片手に何かを持っている。
「……こんな夜中に酒なんて持って出歩いているんですか。見つかったら処罰されますよ」
「その時は団長に泣きつくから心配ない、気にすんな」
へらっと笑うと、ノアールはブランシュの近くまで足を運ぶ。ブランシュの目の前まで来ると、静かにブランシュの頭に手を置く。そして、おもむろに撫で始めた。
「何するんですか、子ども扱いしないでください」
ブランシュはキッと睨みつけるが、月明かりに照らされたノアールの顔は悲し気なのに驚くほど優しかった。
「子ども扱いなんてしてねぇよ。俺はよく頑張ったお前をねぎらってるだけだ」
そういって、ノアールはただただブランシュの頭を撫でている。ブランシュはすぐにうつむいたが、その足元にぽたり、ぽたりと水滴が落ち始めた。
「お前、偉いよ。よく頑張った。お前にはいつか絶対に幸せになってほしい。いや、お前は幸せになるべき男だよ。だから今は悔しがれ。いっぱい悔しがって、いつか出会うとびきりいい女のためにもっといい男になれよ」
そう言ってガシガシとブランシュの頭を撫でる。
「……出会えますかね、レティシアよりも、とびきりいい女に」
「当たり前だろ、そうでなきゃ俺が困る」
「なんで先輩が困るんですか」
ブランシュは俯きながらフッと笑っているのがわかる。ノアールは嬉しくなってさらにガシガシと頭を撫でまわした。
「ちょっと!いい加減にしてくださいよ」
「ああ、悪い悪い、つい力が入っちまった」
頭を抱えて抗議するブランシュに、ノアールはくくくと笑っている。そんなノアールを見て、ブランシュも目から涙をこぼしながら一緒になって笑った。
「全く。俺に幸せになれって言うなら、まずは先輩が幸せになるべきですよ」
ぐちゃぐちゃになった髪を整えながら、ブランシュはあきれたように言い放った。
「俺が?」
「そうです。まずは見本を見せていただかないと。幸せになるためには、いつまでも過去を引きずっていてはいけないでしょう」
ニッと口の端を上げてブランシュは不敵に言い放つ。その顔を見て、ノアールは自分の頭をかきながらまいったな、と呟いた。
「……まぁ、そうだな。確かに。わかったよ、俺もちゃんと幸せになれるようもっといい男になるよ」
「ふふ、そうこなくっちゃ」
「お前、やっぱり生意気だなぁ」
うりゃ、とまたブランシュの頭を撫でようとするが、ブランシュが軽く避ける。避けられたノアールはチッと舌打ちをしつつも、ブランシュを見て笑う。
「よし、とりあえず景気づけに一杯やろうぜ」
ノアールが片手に持っていた酒瓶を嬉しそうに見せると、ブランシュはあきれた顔で言った。
「どう考えても規則違反じゃないですか。そんなことに後輩を巻き込むなんてやっぱりひどい先輩ですね」
「今更わかったのか?」
がしっとブランシュの肩に腕を回し、ノアールはにやりと笑う。ブランシュも、やれやれと言った表情をしながらも嬉しそうに笑った。
夜になり、ブランシュは人気のない寮の一角で月明かりの下で木刀を振っていた。ブランシュはここでいつも夜中に一人で稽古をしている。今日もいつもと変りなく木刀を振っている、はずだった。
木刀を振る手に力がこもり、一心不乱にブランシュは木刀を振り回す。いつもは正確な動きなのに、今日は手あたり次第に振り回している。ビュンビュンと木刀が風を切る音が強くなり、ブランシュは木刀を地面に振り下ろした。
バキッ
木刀が真っ二つに割れる。はあはあと肩で息をしながら、ブランシュは割れた木刀を静かに見つめていた。
「よう、精が出るな」
突然声がしてブランシュはびくりとする。視線を向けるとそこにはいつかのように壁に背をもたれかけているノアールがいた。いつかと違うのは片手に何かを持っている。
「……こんな夜中に酒なんて持って出歩いているんですか。見つかったら処罰されますよ」
「その時は団長に泣きつくから心配ない、気にすんな」
へらっと笑うと、ノアールはブランシュの近くまで足を運ぶ。ブランシュの目の前まで来ると、静かにブランシュの頭に手を置く。そして、おもむろに撫で始めた。
「何するんですか、子ども扱いしないでください」
ブランシュはキッと睨みつけるが、月明かりに照らされたノアールの顔は悲し気なのに驚くほど優しかった。
「子ども扱いなんてしてねぇよ。俺はよく頑張ったお前をねぎらってるだけだ」
そういって、ノアールはただただブランシュの頭を撫でている。ブランシュはすぐにうつむいたが、その足元にぽたり、ぽたりと水滴が落ち始めた。
「お前、偉いよ。よく頑張った。お前にはいつか絶対に幸せになってほしい。いや、お前は幸せになるべき男だよ。だから今は悔しがれ。いっぱい悔しがって、いつか出会うとびきりいい女のためにもっといい男になれよ」
そう言ってガシガシとブランシュの頭を撫でる。
「……出会えますかね、レティシアよりも、とびきりいい女に」
「当たり前だろ、そうでなきゃ俺が困る」
「なんで先輩が困るんですか」
ブランシュは俯きながらフッと笑っているのがわかる。ノアールは嬉しくなってさらにガシガシと頭を撫でまわした。
「ちょっと!いい加減にしてくださいよ」
「ああ、悪い悪い、つい力が入っちまった」
頭を抱えて抗議するブランシュに、ノアールはくくくと笑っている。そんなノアールを見て、ブランシュも目から涙をこぼしながら一緒になって笑った。
「全く。俺に幸せになれって言うなら、まずは先輩が幸せになるべきですよ」
ぐちゃぐちゃになった髪を整えながら、ブランシュはあきれたように言い放った。
「俺が?」
「そうです。まずは見本を見せていただかないと。幸せになるためには、いつまでも過去を引きずっていてはいけないでしょう」
ニッと口の端を上げてブランシュは不敵に言い放つ。その顔を見て、ノアールは自分の頭をかきながらまいったな、と呟いた。
「……まぁ、そうだな。確かに。わかったよ、俺もちゃんと幸せになれるようもっといい男になるよ」
「ふふ、そうこなくっちゃ」
「お前、やっぱり生意気だなぁ」
うりゃ、とまたブランシュの頭を撫でようとするが、ブランシュが軽く避ける。避けられたノアールはチッと舌打ちをしつつも、ブランシュを見て笑う。
「よし、とりあえず景気づけに一杯やろうぜ」
ノアールが片手に持っていた酒瓶を嬉しそうに見せると、ブランシュはあきれた顔で言った。
「どう考えても規則違反じゃないですか。そんなことに後輩を巻き込むなんてやっぱりひどい先輩ですね」
「今更わかったのか?」
がしっとブランシュの肩に腕を回し、ノアールはにやりと笑う。ブランシュも、やれやれと言った表情をしながらも嬉しそうに笑った。