兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

番外編:自分の気持ち

「おい!待てって!」

 逃げるニーシャに追いついたノアールは、ニーシャの手を掴んだ。追いつかれたニーシャは逃げるのを諦めて立ち止まる。

「どうして追いかけてきたんですか。団長さんたちとお話してたんじゃ」
「こっちの方が大事なんだよ」

 思わずニーシャの手を掴む力が強くなった。

「家に戻るのはダメだ。まだ犯人が捕まってないんだ、危険すぎる。それにニーシャがここにいて迷惑なんじゃない」
「じゃあなんて私のこと避けてたんですか。なにかご迷惑なことをおかけしたからですよね、きっと」

 不安そうにノアールを見上げるニーシャを見て、ノアールは片手で頭をガシガシとかく。

(どうして俺に怒らないんだよ、どうして謝るんだよ。悪いのは俺だろう)

 ノアールは静かに深呼吸すると、真剣な眼差しでニーシャを見つめた。

「迷惑なんてかけられてない。悪いのはニーシャじゃなくて俺だ。俺の問題なんだよ」
「ノアールさんの、問題?」

 ニーシャはわけがわからないという顔で首をかしげる。

「あんたが若い騎士たちに囲まれてるのを見て、なぜかわかんないけどすごく嫌な気持ちになったんだよ。ブランシュには、若い騎士にかっさらわれないように、なんて忠告されるし、あんたはそんなこと知りもしないで俺と目が合ったら嬉しそうに笑って挨拶してくるし。そのせいで俺の心臓が意味わかんない動きするしで混乱してたんだよ」

 ノアールの説明に、ニーシャは首をかしげたまま目を大きく見開いている。

「今だって混乱してる。あんたのこと見て可愛いなって思ったり、自分から逃げたくせに今度は逃げられる側になったら焦るし。この気持ちには気づいちゃいけないって思うほど、気づけよって言われんばかりに心臓がドキドキしっぱなしで胸が苦しくて、……いい歳しておかしくなりそうなんだよ」

 ニーシャの顔がどんどん赤くなっていく。

(ほら、そういう顔すると俺は耐えられなくなる)

 ノアールは思わずニーシャを抱きしめた。小柄で華奢なのにちゃんと女性らしい柔らかさがある。しかも、ほのかにいい香りがしてノアールは思わず目を瞑った。

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