兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
「男の前でそんな顔したらだめなんだよ。もうちょっと警戒心持ってくれ」
「そ、そんなこと言われても」

 腕の中でニーシャは相当困っている。そして、困らせているのは自分だと言うこともノアールはよくわかっていた。

「俺にはずっと片思いしてた人がいた。好きで好きで仕方なくて、でも思いを伝えることさえおこがましくて、ただ一緒に楽しく話をしたり笑ったりするだけで幸せだったんだ。当時の俺は、それ以上は望んじゃいけないって思ってた。そしたら、いつの間にかその人は別の男と結婚することが決まって、それから俺の時はずっと止まったままだった」

 静かにノアールはニーシャの肩口に顔をうずめる。

「それで別にいいと思ってた。最初の頃は未練があったのかもしれないけど、いつの間にかそんなものも無くなっていたし、一人でも幸せだしと思ってた。別に誰かをまた好きになろうとも、誰かに好きになってもらおうとも思わなかいし、そもそも好きって気持ちがどういうものかも覚えてなかったんだ。それでよかったんだ、よかったはずなんだよ」

 ぎゅっとニーシャを抱きしめる力が強くなる。

「それなのに、あんたと関わるようになっていつの間にか俺の心の中にあんたがいるようになったんだよ。なんでかわからないけど、気になって仕方なくて、胸が痛かったり苦しかったりして、どうしていいかわからない」

 そう言って、そっとノアールはニーシャから離れてニーシャを覗き込む。ニーシャの顔は真っ赤になっていた。

「だからそういう顔されると困るんだって、危機感持ってくれよ」
「そんなこと言われても、こんな顔になっちゃうしこんな顔にしたのはノアールさんですよ」

 両手で顔を覆ってうーっとニーシャは唸っている。そのニーシャの両手首をノアールは静かに掴んで、ニーシャの顔が見えるようにした。

「今すぐにこの気持ちに答えてほしいとは思わない。そもそもこの気持ちに戸惑ってるのは俺も同じだからな。でも、頭の片隅くらいには置いててほしいかもな」

 フッと眉を下げて笑うノアールの顔に、今度はニーシャの心臓が大きな音を立ててなる番だった。

「わ、わかりました。わかりましたから手を、離してもらえませんか」
「お、悪い悪い」

 ノアールが両手を離すと、ニーシャはまた両手で顔を覆ってうーっと唸っている。

(なんだこれ、可愛いな)

 ノアールは胸いっぱいに愛おしさがあふれてきてまたニーシャを抱きしめたい衝動にかられたが、なんとか堪えた。
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