兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

番外編:幸せ

「犯人、捕まってよかったですね」

 犯人を捕獲した翌日、ブランシュはノアールの部屋でゆっくりとお茶を飲んでいた。

「なんでお前が俺の部屋で茶なんか飲んでんだよ。酒ならともかくなんで茶だよ」
「俺は未成年ですし、俺は紅茶が好きなんです。せっかくいい茶葉が手に入ったから先輩にもお譲りしようと思ったのに」

 ふん、とブランシュはノアールを一瞥してからまた静かにお茶を飲んでいる。

 犯人が捕まってすぐに犯人の家の捜索が開始され、家の中からニーシャの持ち物が数点発見された。ニーシャの持ち物を盗んでいたのもその男だった。その男はたまたま武器を修理に出した時のニーシャの対応に気を良くして、武器をわざと壊してまでしてたびたびニーシャに会いに行っていたらしい。

「ニーシャさんは別に特別にそいつに優しくしたわけでもなんでもなく、誰に対しても公平に接客していただけなのに、普段誰からも優しくされたことがなかったその男は勝手に勘違いして勝手に思いを募らせていた、と」
「胸糞悪い話だよまったく。でも今までよくニーシャも無事だったな。確かにああいう誰にでも分け隔てなく平等に優しく接する人間は、勝手に勘違いされたり一方的に思われそうなタイプではある」
「親方が目を光らせていたから普通の人間だったら怖気づいてしまうんでしょうけど、あの男はやっぱりどこかおかしかったんでしょうね」

 ブランシュの返事にノアールは大きくため息をつく。

「おかしな人間に善良な人間が脅かされないように、俺たち騎士団がしっかり働かなきゃいけないんだろうな」
「珍しくまともなこといいますね。普段さぼってばかりのクセに。やっぱり愛は人を変えるんでしょうか」
「うるせえよ」

 ノアールが吐き捨てると、ブランシュはクスクスと楽しそうに笑った。

「それにしても、いつからニーシャさんのこと好きになったんですか?」

 ブランシュの質問に、ノアールは頭をガシガシとかいて首をひねる。

「わからん。気づいたらいつの間にか好きになってた、んだろうな。自分でもなんでそうなってたのか、そもそもいつから気になったのか全然わかんねぇよ」
「へえ。でも、案外結構前から気になってたんじゃないですか。先輩、事件が起こるずっと前から、鍛冶屋から帰って来る度にいつもニーシャさんの話してましたから」
「は?まじで?」

 ノアールが両目を見開いてブランシュを見つめる。それを見て、ブランシュはまた楽しそうにクスクスと笑った。

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