兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

団長の思い

「団長、何かいいことでもあったんですか?」

 近くにいた副団長にそう言われて、アスールは内心ドキリとしていた。団員の前ではあまり内面を出さないように日々心掛けており、その日はいつも以上に気をつけていたはずだったが、どうやら顔にでてしまっていたようだ。

「いや、別に何も変わりはないが、そう見えたか?」

「はい、なんとなく、ですけど。いつもは口が真一文字に結ばれているのに、今日は口角がほんの少しだけ上がっているように見えます。……気のせいでしたか?」

 さすがはいつも自分の側にいて共に死地を潜り抜けてきただけの男だ。ほめてあげたいところだが、今日に限っては気づかれたくなかったとアスールは心の中でため息をつく。

「気のせい、だな。まぁ機嫌が悪いと思われるよりはましだが」

 ごまかすように苦笑すると、それもそうですねと副団長は笑う。

 ふと、近くにいたブランシュが冷ややかな瞳をこちらにむけながら近寄ってくる。

「そういえば、寮母さんも今日はご機嫌みたいですね。昨日まではずいぶん疲れ切った顔をしていましたけど、今日はずいぶんと晴れやかに見えます。……誰かさんと何かあったんでしょうか」

 静かに、アスールにだけ聞こえるように言う。アスールが眉をしかめて無言で見つめると、ブランシュは冷ややかな瞳を崩すことなくアスールへ一礼してその場を立ち去った。

「団長、あいつと何かあったんですか?あいつ、いつも団長にやたら敵対心燃やしているように見えるんですが」

 会話の内容は聞き取れなかったが、二人の雰囲気を察した副団長がアスールに尋ねる。

「さあ、なんなんだろうな」

 アスールはブランシュの後姿を見つめながら、そう吐き捨てた。


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