兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

悪友

「おい、アスール、いるんだろ?ちょっといいか」

「ノワールか、入れよ」

 アスールの返事にドアがゆっくりと開かれ、一人の騎士が入ってきた。少し長めの黒髪をひとつに束ね、長身でスラリとしている。少したれ目でややくたびれたような風貌に見えるが、その瞳の奥底にはギラギラとした光を宿している。その男はノワールといい、アスールとは同期で昔から仲がいい。

「どうした、こんな時間に」

「いい酒を手に入れたからこっそり持ってきた。一緒に飲もうぜ」

「お前……」

 寮内は基本的に禁酒だ。お祝いごとなどの場合には解禁されるが、それ以外ではお酒を持ち込むことも禁止されている。

「よく騎士団長の部屋に酒を持ち込めるな、お前の神経を疑うよ」

「騎士団長の部屋だからだろ。たとえ見つかったとしても騎士団長が共犯だったら罪は軽くなる」

 へへへ、と薄ら笑いをしながら懐から酒瓶を取り出して机の上に置く。部屋の片隅にある棚からグラスを二つ取り出して酒瓶から酒を注ぎ入れた。手慣れた様子にアスールはやれやれとため息をつく。

「お前はいつも仕事ばっかりしてるな。楽しいのか、それ」

「楽しいことも楽しくないことも両方だ。お前は仕事しなさすぎだろう」

 注がれた酒を一口飲みながらアスールは言った。ノアールは地位や名誉に興味がなく、仕事も最低限のことしかしない。だが、仕事をしなさすぎ、とはいってもノワールは剣の腕だけは良い。討伐の任務や警備の任務では誰よりも抜きんでていい働きぶりをする。それを知っているからこそ、アスールはノワールを邪険にしないし、飲酒のことも大目に見ているのだ。

「そういえば今日のレティシアはご機嫌だったな。何かあったのか?」

 にやにやと笑みを浮かべながらノワールはアスールに聞く。ノワールは、アスールのレティシアへの気持ちを唯一知っている男だ。昨晩のことを教えると、ノワールは目を輝かせてアスールのグラスへなみなみと酒を注いでいく。

「お前、珍しく積極的だな。それで、気持ちは伝えたのか?」

「伝えるわけないだろ、ばか。レティシアはどうせ俺のこと兄としか思ってないんだぞ。そんな男に急に告白なんてされてみろ、気持ち悪いだろうが」

「兄のように、ねぇ……そんなことねぇと思うけどな」

 ぼそり、とノワールはつぶやくが、そのつぶやきはアスールには届かなかった。

「俺はこの気持ちをレティシアに伝えるつもりはない」

 アスールの言葉に、ノワールはグラスをくるくると傾けてふーんと気のない返事をした。

「だったら、レティシアが他の誰かと結婚しても問題ないんだな?レティシア、縁談話が来てるらしいぞ」

 ノアールの言葉に、アスールは耳を疑った。



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