人生詩集・青少年編

ブルースパニッシュアイズ(散文詩)・1

失いたくない、始めの心を。なくしたくない、更生への誓いを。
戸外に吹きすさぶ冬の嵐に心は萎え、すべてを見失いそうな今、
俺はペンを取り、ユースホステルの壁にかかった女優の写真を、憑かれたようにスケッチしていた。
『馬鹿にするな。俺はただの放浪者でもなければタワシでもない。ランボーを求めてこの地までやって来た、俺は詩人であり、絵描きであり…』などと、
自らに云い聞かせ、他人に示しでもするかのように、ひたすらペンを走らせていた。
各国の若者であふれたロビーは騒々しく、それぞれの会話に夢中になっていて、俺に関心をはらう者などいない。
『目障りな野郎だ。ここで何をしている。貝のように黙りこくった、つまらない東洋人め』とでも伝わり来る想念は、俺意外の者すべてのものだったか、それとも俺が俺にこさえて見せたものだったか…判然としない。とにかく俺の心はフリーズ…凍っていた。
つい昨日まで市郊外のタウヌス山で、俺は寒空のもと野宿していたのだった。文無しだったから。しかし寒さと空腹に耐えきれず、市内に戻って来ては夜の街角に立ち、身に付けていたセイコーの腕時計を通行人に売りつけて、ようやく10マルクを得たのだった。
昨晩泊ったユースのベッドの温かったこと、そして今朝の朝食のパンとソーセージの美味しかったこと…。
いまこうしてスケッチをしているのは未だ充たされぬ空腹を忘れる為というよりは、魂の空しさと飢えが、たまらないからだ…それを少しでも充たしたいから。
身心ともに極まると人はどうなるか。人の目をしていなくなり、ふふ、アウシュビッツの囚人然として来るのさ。
でもまさしくそんな時に、君は現れた…。

   【(西)ドイツ・タウヌス、有名な保養地・温泉地、しかし12月の山間は寒い…】
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