ただ、一面の青。

Prologue




「あの、…もしかして、青くん?」


引っ越してきたばかりの街を散策中。
すぐに分かったのは、いつも想像していたから。

彼はどんな風に成長するのだろうか、と。


端正な顔立ちには昔の面影、眉毛の小さな傷もあの頃のまま。だから、ほとんど確信に近い気持ちで名前を呼んだ。


「青くん、だよね?」


その日は季節変わりの涼しい日だった。
街ゆく人は突然訪れた秋の気配に困惑気味で、皆バラバラの装いの中、私は薄手の長袖。彼は丈が長めのTシャツ姿。



「サク、誰?知り合い?」

周りの友人達がニヤついて肘で突く。

「ファンじゃん?」
「マジ?またサクかよ」

キャハハ、と陽気なノリに思わず身構えて鞄の肩紐を握りしめれば、彼の視線が緩やかに私に向けられた。

「…知らね」


淡い期待を抱いた胸は痛んだけど、忘れていても仕方無い程過去の事。
彼はとっくに興味を失ってスマホをいじっている。


「青くん、…元気そうでよかった」

ただ、姿を見れただけで嬉しい。


「強烈なファンじゃん」
「なんでサクばっかり〜」

居座っては迷惑だろうと、揶揄う周りの声に飲み込まれないよう「バイバイ」と声をかけ小さく手を振った。



じんわり涙が溢れたのは、悲しみもあったけど本当に嬉しかったから。

こんな偶然きっともう二度とない。
新生活になんて素敵な贈り物。



正真正銘これでお別れだ、と背を向けた時。

「一回だけなら遊んでやろーか?」

ひんやり、他人を傷つける事を厭わない声が降ってきた。


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