ただ、一面の青。
Prologue
*
「あの、…もしかして、青くん?」
引っ越してきたばかりの街を散策中。
すぐに分かったのは、いつも想像していたから。
彼はどんな風に成長するのだろうか、と。
端正な顔立ちには昔の面影、眉毛の小さな傷もあの頃のまま。だから、ほとんど確信に近い気持ちで名前を呼んだ。
「青くん、だよね?」
その日は季節変わりの涼しい日だった。
街ゆく人は突然訪れた秋の気配に困惑気味で、皆バラバラの装いの中、私は薄手の長袖。彼は丈が長めのTシャツ姿。
「サク、誰?知り合い?」
周りの友人達がニヤついて肘で突く。
「ファンじゃん?」
「マジ?またサクかよ」
キャハハ、と陽気なノリに思わず身構えて鞄の肩紐を握りしめれば、彼の視線が緩やかに私に向けられた。
「…知らね」
淡い期待を抱いた胸は痛んだけど、忘れていても仕方無い程過去の事。
彼はとっくに興味を失ってスマホをいじっている。
「青くん、…元気そうでよかった」
ただ、姿を見れただけで嬉しい。
「強烈なファンじゃん」
「なんでサクばっかり〜」
居座っては迷惑だろうと、揶揄う周りの声に飲み込まれないよう「バイバイ」と声をかけ小さく手を振った。
じんわり涙が溢れたのは、悲しみもあったけど本当に嬉しかったから。
こんな偶然きっともう二度とない。
新生活になんて素敵な贈り物。
正真正銘これでお別れだ、と背を向けた時。
「一回だけなら遊んでやろーか?」
ひんやり、他人を傷つける事を厭わない声が降ってきた。
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