ただ、一面の青。

その言葉に振り向けば彼の口角はニィと持ち上がり、周りの興味津々な視線が突き刺さる。


「えー、サクから誘うの珍しい」

「別れたばっかで溜まってんの?」

「いくらカッコ良くても、サクはかなりクズいから辞めときな?」

何が可笑しいのケタケタと笑う友人らの中心にいて、一際そこから浮いている彼。


「俺のファンなんだろ?」

青くんが話すたび静まり返る。

「えっと、」

「どーすんの?」

「…遊んでくれるの?」

緊張で少し震えた声を彼は鼻で笑って「遊びの意味分かってる?」と口角を歪ませた。

小さく頷く。
もう、そんなに子供じゃない。


青くんは、ふーん、と面白くなさげな顔で手招きをすると、私を目の前に立たせ徐に指を伸ばしてきた。

つ、と触れた皮膚の冷たさ。
ぴくりと反応した指先から輪郭を辿るように這ってくる手。

それが両手を包み込むと、短く切り揃えられたはずの彼の爪が手のひらに食い込んだ。


痛みで一瞬眉を寄せたけど、それよりも喜びが勝る。

青くんだ。
この手は本当に青くんだ。


「名前、なんて言うの?」

「う、植草…菜乃花」

残る微かな記憶を頼りに彼を思い出しては恋しがっていた日々。
その声でもう一度名前を呼んで欲しいと、何度願っただろうか。


「植草…?ふーん。植草さんって言うんだ。よろしく、」

〝菜乃花〟

声を発さずに唇だけが動いた。

それはもう、後戻りのできない合図だった。

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