ただ、一面の青。
「そうそう菜乃花ちゃん!本当に転校生だった!!」
ジャジャーン!と青くんの前まで押し出されれば、今更隠れる訳にもいかなくて、取り敢えず頭を下げておく。
「あ…こんにちは」
恥ずかしさで元々小さい声が益々弱る。
「あー、、なんだっけ名前」
「…う、植草です」
自分でもまだ慣れない苗字を伝えれば、その顔が意味深に歪んだ。
「そうだ、植草さんだ。…この間逃げたくせによく顔出せたね?」
遡ること数日前。
『ふーん。植草さんって言うんだ。よろしく』
『…よろしく、お願いします』
9月の大型連休中。
『どこ高?』
『あ…北高…』
引っ越してきて2日目の出来事。
『北高?見た事ないけど、…ま、いっか』
『え?』
彼の目がギラついた。
『とりあえずホテル行こ』
『……え?』
「いや〜『やっぱり私帰ります!』って。傑作。今日から菜乃花ちゃん推すわ」
ゲラゲラと笑う麟太朗くんに釣られて、ユナちゃんも瀬戸くんも笑い出す。
「サクすごい勢いで手振り解かれてた」
「フラれるサク初めて見た」
サク、サク、サク。
随分小気味の良い響きは彼の雰囲気とまるで合ってなくて、何度聞いてもしっくりこない。
私にとって彼はもっと深くて重い、青。
皆の注目を集める男の子。
ビジュ最強やら顔面つよやら、やけに顔に対する評判が良い北高の有名人。遅刻やサボりも平気でして、女の子をやり捨てするクズらしい。
サク。
佐久間 青。
私は今日、初めて青くんの苗字を知った。