ただ、一面の青。
*
「——くささん」
「…」
「植草さんってば!」
「…え?」
どうやら名前を呼ばれていたらしい。
未だ慣れない『植草』という苗字に反応が遅れてしまった。
「ごめんなさい。どうしたんですか?」
高校も気付けば通い始めて二週間。
ちらほらと友人らしき人が出来始めてきた。
とあるグループに混ざって一緒に昼食を取り、移動教室に行く。休み時間を過ごす。
それはもう、当たり前に友人と言っていい気もするが、まだ二週間そこら。完全に打ち解けていないのは向こうも同様。
その証拠に、ほら。
「植草さんって、前はどこに住んでたの?」
私の素行調査が行われている。
「前は〇〇区ですよ」
「え〜!そこって治安悪くない?」
「よく住めるね!すごい〜!私なら無理だ〜」
こういった言葉はなんて返せばいいのか。
ありがとう?そんな事ないよ?
文字通りの褒め言葉でない事くらいは私だって分かる。
「…まぁ、でも住んでみると意外と平気ですよ」
無難に言葉を選べば角が立たない事をこの数年で学んだ。
「絶対やばいよ〜」
「あそこ普通にゲロ落ちてるって聞いたよ!」
「確かに金土はあるかもしれないです」
「えっ、やば。すご!!」
適度に話題を提供して、適度に話を合わせて。この死ぬ程退屈な会話が“幸せ”だと知っているから、どんなにつまらなくてもそれを顔に出したりはしない。