ただ、一面の青。





「——くささん」

「…」

「植草さんってば!」

「…え?」

どうやら名前を呼ばれていたらしい。
未だ慣れない『植草』という苗字に反応が遅れてしまった。

「ごめんなさい。どうしたんですか?」


高校も気付けば通い始めて二週間。
ちらほらと友人らしき人が出来始めてきた。

とあるグループに混ざって一緒に昼食を取り、移動教室に行く。休み時間を過ごす。

それはもう、当たり前に友人と言っていい気もするが、まだ二週間そこら。完全に打ち解けていないのは向こうも同様。


その証拠に、ほら。

「植草さんって、前はどこに住んでたの?」

私の素行調査が行われている。


「前は〇〇区ですよ」

「え〜!そこって治安悪くない?」

「よく住めるね!すごい〜!私なら無理だ〜」

こういった言葉はなんて返せばいいのか。
ありがとう?そんな事ないよ?

文字通りの褒め言葉でない事くらいは私だって分かる。


「…まぁ、でも住んでみると意外と平気ですよ」

無難に言葉を選べば角が立たない事をこの数年で学んだ。


「絶対やばいよ〜」

「あそこ普通にゲロ落ちてるって聞いたよ!」

「確かに金土はあるかもしれないです」

「えっ、やば。すご!!」

適度に話題を提供して、適度に話を合わせて。この死ぬ程退屈な会話が“幸せ”だと知っているから、どんなにつまらなくてもそれを顔に出したりはしない。

< 9 / 37 >

この作品をシェア

pagetop