憧憬

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自分の家庭環境が『普通』ではないことに気が付いたのは、いつからだっただろう。

2DKの公営団地。
敷きっぱなしの布団に散らかった部屋。

物心ついた時には父親はいなくて、母親であるはずのあの人は女として生きている。

時々送られてくる現金書留の中身は、中2の私が生きていくには充分な額。

あの人がどこで何をしているのかなんて知らない。
解っているのは、男と一緒に暮らしているということだけ。

『美月はもう14才だから大人でしょ?ママは女として幸せになりたいの』

髪の毛を染めても学校をサボっても、何も言わなかったあの人は、1ヶ月前にそう言い放って家から出て行った。

窓の外を眺める。
6月のこの時期は、雨が降ったり止んだり不安定だ。

ポツリポツリと電気がついて、あたたかい笑い声が聞こえる。
私が与えてもらえなかった家族という存在が、この団地にはたくさんある。

いつから大人になるのか、どうして寂しいと思うのか。
答えは見つからなくて、とっくの昔に考えるのをやめた。

買い置きしてあるカップ麺にお湯を入れて、テレビの音量を大きくする。

うるさい音量は、あたたかい家族の笑い声を打ち消してくれる。
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