Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

　虚をつかれた水沢は唖然とし、まばたきを繰り返した。慧弥を見つめ返してぎこちなく笑う。

「はっ、知ってたのかよ。うぜー」
「なんとでも言え。それに俺のほうは本当になんとも思ってない。妹みたいなもんだよ、あれは」

　そこで水沢のスマホが鳴った。会話から察するに、電話の相手は同僚のようだ。通話を終えた水沢が残りのコーヒーを飲み干し席を立つ。「悪い、呼び出しだ」と言って早々と店を出て行った。

「しらじらしいなぁ、拓司は」

　残された慧弥は嘆息してそう独りごちる。テーブルの上で微かな振動を感じた。それまで置きっぱなしにしていた慧弥のスマホが鳴っている。

「ああ、お疲れ様です。ミライさん」

　いつもの営業スマイルで応じると『昨日はどうでしたか？』と尋ねられる。

「問題ありません。順調すぎるほど上手くいきました。ピアノもばっちり弾いてくれましたし、彼女はこれから前向きに進んでいけると思いますよ。まぁ僕がそういうふうに仕向けますしね。……ええ、それは勿論。大丈夫です」

　スマホを耳に当てながら笑みを絶やさずに相槌を打つ。耳に流れてくるのは幼い女性の声だ。

「そうですか。次は一週間後。ではまたそのときに進捗を報告しますね、はい」

「失礼します」と続け、慧弥は伝票を手に席を立った。