Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
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【そっか。今日だったんだ。郷くんがちゃんと話せて良かった】
慧弥からのメッセージを受信してスマホを持ち上げた。想乃は自室のベッドに座りながらタタっと文字を打ち込み、返信する。
【はい。事実確認をする間は郷と調査官の方の二人だけで話し合って、私は別室で待機だったんですけど。郷が思ったより落ち着いていて、私も安心しました】
今週が始まった月曜日のことだ。想乃は家庭裁判所の職員から電話を受け、以前慧弥から聞き及んでいたいじめの前後関係についての聞き取りをお願いされた。あまり長引かせる問題でもないので、清掃業のない水曜の夕方、母の見舞いを済ませたあとに約束を取り付けた。
調査官として現れたのはひとりの男性職員で、優しい言葉遣いで郷に接してくれた。いじめの記憶を呼び起こすのは、郷にとって辛く苦しいだろうと思っていたのだが。郷は姉である想乃には聞かれないと知り、安堵して話してくれたらしい。浅倉家から帰る際、職員からそう聞かされていくらか複雑な気分になった。
自分にはよっぽど知られたくなかったんだなと思うと、これまでひとりで耐えていた弟になんて言ったらいいのかわからなくなった。
極力触れられたくない傷であろうから、想乃はいつも通りテレビや仕事の話題を振って郷と夕食を済ませた。