Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「……あ」

 また声が出ていた。想乃は唇をきゅっと結び、途中まで打った文字をバツ印で消去する。ブブ、とまたスマホが震えた。

【あと。ふりなのに、とか気にしちゃだめだよ。恋人同士なら送る、送られるは当然の行為だから】

 こちらの考えていることがすっかりお見通しなのを自覚し、少し恥ずかしい気持ちになった。想乃の眉が力なく下がり、ハァ、と息をつく。【わかりました。ありがとうございます】と返事をした。

【あとで電話するね】とメッセージが届いて、きゅうっと胸が締め付けられた。

 事務的なメッセージだけじゃなくて電話もしてくれるなんて……。

 慧弥のことを想うだけで心拍が高まり、喜びや感動で満たされる。

 恋愛感情に他ならない今の気持ちをうまく言葉にできなかった。想乃はスマホを見つめたまま、了解のスタンプで返した。

 体が後ろに傾き、ボスンと音をたてる。ふかふかの布団に寝転がったまま、土曜日に見た慧弥の笑顔を思い出す。きゅうぅとまた胸が甘く痺れて目を閉じた。

 これまで二十年生きてきて、こんなにも強く誰かを想うのは初めてだった。ハァ、と気だるい吐息がこぼれる。「慧弥さん」と名前を呼ぶ。「好きです」と言葉にする。
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